プリンストン神学校(米ニュージャージー州、長老派)は、ニューヨークにあるリディーマー長老教会の創設者、ティモシー・ケラー牧師(66)に、今年の「アブラハム・カイパー賞」を授与する予定だったが、取りやめる考えを示した。女性やLGBT(性的少数者)を聖職者に任命することに反対の立場を採る教団に所属するケラー氏の受賞に対し、同神学校の卒業生らが抗議したためで、抗議から約1週間後の22日、授賞を取りやめる決定を下した。
アブラハム・カイパー賞は、改革派神学や奉仕生活において卓越した学者や教会指導者に毎年授与されるもので、新カルヴァン主義の特徴を表す思想や価値観を政治的、社会的、文化的意義において表現することで、著しく社会に貢献した人に贈られる。受賞の条件は、受賞者がアブラハム・カイパー公共神学センターの目的に沿ったテーマで講演を行うこととされている。
プリンストン神学校のM・クレイグ・バーンズ校長は声明(英語)で、「私はこの件に関して、カイパー委員会の議長、評議会の議長およびケラー氏を交えて有益な話し合いを持ちました。今度のカンファレンスの講師としてケラー氏を招いていますが、これ(ケラー氏の招聘=しょうへい)が、聖職者の任職に関するアメリカ長老教会(PCA)の立場への支持を示すものではないことを表明する意味で、当神学校は今年、ケラー氏にアブラハム・カイパー賞を授与しないことで合意しました」と発表した。
プリンストン神学校は米国で2番目に古い神学校で、米最大の長老派の教団であるアメリカ合衆国長老教会=PC(USA)が認可する10の神学校の中で最も大きい。PC(USA)は2015年、教会規則で結婚の定義を変更し、同性婚を容認。女性や同性愛者の聖職者も認める立場を採っている。一方、リディーマー長老教会が所属するPCAは、米国でPC(USA)に次ぐ2番目に大きな長老派の教団で、同性愛は認めておらず、聖職者も男性のみとしている。
ケラー氏は、1989年に妻のキャシーさんと3人の幼い息子たちと共にリディーマー長老教会を開拓。専門職に就く若者を中心に多様性に富んだ会衆を20年余りにわたって牧会し、同教会は毎週5千人余りが集うまでに成長した。またケラー氏は、同教会の開拓伝道者養成機関「リディーマー・シティー・トゥー・シティー」の指導者としても奉仕している。同機関は、ニューヨークや世界中の都市で新しい教会を開拓し、都市文化の中で信仰を育成するため、書籍や資料を出版しており、これまでに世界54都市に381教会を立ち上げている。
ケラー氏は4月6日、プリンストン神学校のミラーチャペルでアブラハム・カイパー賞を受賞し、教会開拓に関する講演を行う予定だった。
しかし、プリンストン神学校の卒業生で、PC(USA)の女性牧師であるトレーシー・スミス氏が、女性やLGBTの任職に関してPCAの立場を採るケラー氏に授賞すべきではないとブログ(英語)で抗議した。
「ケラー牧師はおそらく、PCA内で最も影響力のある牧師ですが、PCAが女性を聖職者に任命すべきではないと主張していることは非常に明確です。ケラー氏が(また所属教団も)、LGBTの人々の任職に排他的であることも明確です」とスミス氏は書いている。
この抗議は即座にプリンストン神学校の関係者の間に広まり、校長のバーンズ氏は弁明を余儀なくされた。
バーンズ氏は初め、「当神学校は、数多くの学生組織や神学機関を有しており、それぞれがキャンパスに講師を招きます。私の執務室がキャンパスへの公式の招待状を発行していますが、私や当神学校が講演者の見解の一部に同意しないとしても、招待した組織の選択を検閲することはありません」と述べていた。
また、「私の希望は、私を含む多くの人が、公正さという重大な問題に関して強く反対している方(ケラー氏)の講演を聞けることを覚えつつ、恵みと学問の自由の精神でケラー氏を受け入れることです」としていた。
しかし抗議の声は拡大し、バーンズ氏は22日、やむなく妥協。ケラー氏の授賞は取りやめ、講演のみを行うことにした。
「ケラー氏はカイパーセンターのカンファレンスの講師として招かれており、講演していただくことに変わりはありません。寛大な心をもって、その約束を守ることに同意しておられます。当神学校が、キリスト教界内にある声を抹殺することはありません。そのような精神を持つ私たちは、聖職者の任職に関して神学的に大きく見解が異なるとしても、講演してくださる教会指導者を歓迎することのできる神学校なのです。ケラー氏の講演の主題は、レスリー・ニュービギン(英国の宣教学者)と教会の使命です。聖職者の任職ではありません」