東京神学大学(東京都三鷹市)元教授の関川泰寛氏(日本基督教団大森めぐみ教会牧師)が、ブログの記事や学内で配布された文書などを巡り人格権を侵害されたとして、同大の芳賀力学長を相手取り起こした訴訟で、東京高裁(土田昭彦裁判長)は2月28日、1審の東京地裁に続き、関川氏の主張を一部認め、芳賀氏に対し慰謝料20万円の損害賠償を命じた。一方、人格権の侵害と認める範囲は、東京地裁の判決よりも限定的となり、損害賠償の金額は30万円から20万円に減額された。
ブログ記事、事務職員に配布の文書巡り人格権侵害を認定
判決によると、関川氏は、芳賀氏による①職場における継続的無視・拒絶、②ブログの記事、③同教団静岡教会における発言、④同大事務職員に配布した文書により、精神的苦痛を受け、抑うつ状態となり、退職を余儀なくされたと主張。慰謝料500万円と逸失利益3000万円の計3500万円の損害賠償を求めた。
東京高裁はこのうち、東京地裁の判決の主要な部分を支持し、②ブログの記事、④事務職員に配布した文書の一部について、芳賀氏による人格権の侵害を認定。一方、①職場における継続的無視・拒絶については証拠不十分で、③静岡教会における発言については意見の範囲にとどまるなどの理由で、関川氏の主張は認められないとした。
②ブログの記事は、芳賀氏が自身のブログに、2017年11月と18年1月に投稿した2つの記事(現在は削除)を巡るもの。いずれも関川氏を「S」とイニシャルで表記していたものの、17年11月の記事は、関川氏が芳賀氏に対し嫌がらせや妨害行為を行っていたかのように印象付けるもので、18年1月の記事は、関川氏を「悪魔的人間」と評して強く批判する内容だった。いずれの記事も関川氏の名誉を毀損し、侮辱するものだとし、人格権の侵害を認めた。
④事務職員に配布した文書は、20年3月に事務職員13人に配布されたもので、関川氏の退職届受理に関する経緯を説明するものだった。関川氏は文書の記載内容のうち、7つの記載について人格権の侵害に当たると主張。東京地裁はこのうち6つの記載について人格権の侵害を認めた。
一方、東京高裁は、新たに提出された証拠などから、文書は同大の運営に関する公共の利害に関するものであり、公益を図る目的で記載されたものだったと認定。その上で、東京地裁が人格権の侵害に当たるとした6つの記載のうち、4つの記載については真実性または真実相当性があるとし、2つの記載についてのみ人格権の侵害を認めた。
判決を受け、関川氏は本紙の取材に、次のように語った。
「高い倫理性が求められる東京神学大学の学長が、自身のブログで私を悪魔呼ばわりし、元学生のプライバシーを不正確な形で第三者に漏らすという前代未聞の不法行為を行った事実が裁判で明らかになりました。悪魔というレッテルを貼り付け、事実無根の誹謗中傷が行われたことは非常に残念です。裁判で学長の不法行為が認められても、傷つけられた私の心は晴れません。元学生も同じでしょう。一般大学であれば、理事会や教授会が学長の責任を問うでしょう。判決が確定した以上、東京神学大学が芳賀力学長による一連の不法行為に対する責任の所在を明らかにすることを強く望みます。私にも元学生にも何の謝罪もありません」
一方、芳賀氏は本紙の取材に、次のように語った。
「地裁判決の賠償金30万円が高裁判決では20万円に減額され、訴訟費用も(関川氏の負担対芳賀氏の負担が)100分の99対1から150分の149対1に変更されたこと、先方の附帯控訴の主張が全て棄却されたことは評価したく思います。いずれにせよ、司法の判断に従って賠償金を支払うつもりです」
元学生に対するプライバシー権侵害に続き2度目の賠償命令
芳賀氏を巡っては、同大の元学生が、入学試験の内容や在学中の成績などを一部の牧師に対し口外され、プライバシー権を侵害されたとして提訴。最高裁が2月、芳賀氏の上告を棄却し、芳賀氏に20万円の損害賠償を命じた判決が確定したばかりだった(関連記事:元学生のプライバシー権を侵害、東神大学長に対する損害賠償命令確定 最高裁が上告棄却)。
「東京神学大学の問題を考える会」は、元学生による訴訟の判決確定後の2月27日、同大理事会と近藤勝彦理事長に対し申入書を送付。「学長の不法行為が最高裁によって認められたことは、東京神学大学の信用を失墜させる恥ずべき結果と言わねばなりません」などとし、対応を求めた。
これに対し、理事会は3月1日、元学生による訴訟の判決確定を受けた文書をホームページで発表。芳賀氏が既に元学生に対し賠償金を支払ったことを述べた上で、「この判決の確定を受け、改めて神の御前に立たされ、東京神学大学が主なる神の御旨にかなった神学教育、伝道者養成を、主イエス・キリストにある愛と謙遜によって、また御霊の力を与えられて、進めていくことができるよう、祈り、努力してまいります」などとした。
考える会「弁解の余地はない」 大学改革求める
「東京神学大学の問題を考える会」は3日には、日本基督教団の所属教会に対し文書を送付。同大のホームページに掲載された文書について、「ハラスメントを受けた元学生への謝罪はなく、賠償金支払いによって、全て終了したかのような口ぶりです」と批判。元学生と関川氏による2つの訴訟で、芳賀氏の不法行為が認められたことについては、「弁解の余地はないと言わざるをえません」とした。
また、他にも別の元学生が、同大や同大の教授を相手取り訴訟を起こしていることに言及。「一連の問題の根幹には、大学の組織全体が関わる人権侵害の構造があります」などと指摘した上で、同大上層部の責任を追求し、大学改革のための3つの提言として以下を掲げている。
1. 学長への人事権集中の見直し
現在の東京神学大学では新卒者の人事権は学長に集中しています。このことは、時に学長や大学に対する正当な批判を萎縮させることが起こり得ます。
2. ガバナンスが機能する理事会、評議員会の組織
現状、東京神学大学の理事会、評議員会は正常に機能しているとは言いがたい状況です。その理由として考えられるのは、東京神学大学の在り方に対して客観的な目を持たない方々が理事会・評議員会メンバーとして名を連ねていることにあると思われます。これでは大学のガバナンスが正常に機能するはずはありません。仕組債購入による多大な損失問題も一例です。今一度理事会や評議員会の人選を再考し、その在り方を再検討する必要があります。
3. 改善案の提示
この度、複数の裁判が起こされ、学長による不法行為が認定されました。このような事態を受けて、東京神学大学として改善案が提示される必要があると考えます。批判を組織に対する「攻撃」や「ネガティブキャンペーン」として一蹴するのではなく、神学校としてより良い歩みをなすために、改善案が提示されることが望まれます。