ウクライナやロシアを含む紛争当事国の宗教指導者、政府関係者を招いて行う「諸宗教平和円卓会議」が21日、東京で開幕した。ウクライナ戦争やそれに伴う世界的な影響が出ている中、平和構築に向けた宗教者の意見交換、対話促進の場として開催が叫ばれ、「第1回東京平和円卓会議」として、今回初めて開催が実現した。会場となる都内のホテルには14カ国から約50人が集まり、開会式の模様はさらに15カ国から約60人がオンラインで視聴した。
エマニュエル府主教、岡田克也氏らがあいさつ
開会式では、主催団体である世界宗教者平和会議(WCRP/RfP)国際委員会のアッザ・カラム事務総長(アムステルダム自由大学教授)や、WCRP日本委員会の庭野日鑛(にちこう)会長(立正佼成会会長)らがあいさつ。WCRP国際共同議長を務める東方正教会のカルケドン府主教エマニュエルもあいさつを述べ、「対話なくして和解はあり得ない。対話は原理主義に対する薬であり、より大きな連帯を求めるもの。他者との対話は、特定のアイデンティティーを脅威にさらすものではなく、それを深めるもの」と強調。東方正教会のコンスタンティノープル全地総主教バルソロメオス1世が語った言葉として、「和解とは、歴史の悪を癒やすこと。過去の傷、相互の不信感、誤解、憎悪を癒やしていくこと」だと話した。
後援団体の一つであるWCRP国際活動支援議員懇談会の共同代表を務める立憲民主党の岡田克也幹事長も、開会式であいさつを述べた。岡田氏は外相時代の経験から、異なる宗教や民族が政治的に利用された地域紛争が増大する中、各国政府が宗教を外交政策の重要な要素として認識する流れが加速していると指摘。2019年にドイツ・リンダウで開催されたWCRPの第10回世界大会が、ドイツ外務省との共催で行われたことがその象徴だとした。また同大会で、ドイツのフランクワルター・シュタインマイヤー大統領が、「われわれは、宗教がこれ以上、憎悪や暴力の正当化の原因とされてはならないとの共通の信念の下に団結しなければならない」と語っていたことを紹介。日本も宗教やソフトパワーを外交の重要な要素と位置付けるべきだとし、「憎しみや敵意の武装を解除するために、宗教者にはさらに重要な役割を果たしていただくことが強く求められている」と語った。
和解に向けた諸宗教によるアプローチ
メディアに公開された21日午後のセッション2「和解に向けた諸宗教によるアプローチ」では、中央アフリカ聖公会首座主教のアルバート・チャマ大主教を含む4人が登壇した。
RfPアフリカ宗教指導者評議会共同議長を務めるチャマ大主教は、ある国の対立関係にあった大統領と野党指導者を仲介した経験を紹介。和解を進める活動はリスクを伴うが、「われわれにできるのは、当事者を巻き込み、彼らに耳を傾け、直接語りかけること。状況がどんなに難しくても、一生懸命取り組めば少しずつ変化する」と述べ、宗教者が「和解のパートナー」として果たせる役割があると語った。
RfPラテンアメリカ・カリブ海地域のエリアス・シュチトニッキ事務総長は、長年にわたる内戦に苦しんできた中南米諸国における和解の事例を紹介。南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃において重要な役割を果たした「真実和解委員会」の設置が、中南米諸国各国内の和解においても重要な役割を果たしたと語った。
軍事政権下の1970~80年代に3万人が死亡または行方不明となったアルゼンチンでは、メソジストの牧師やカトリックの司教、ユダヤ教のラビら、宗教者も参加する真実和解委員会が設置された。そこでは、軍に所属していたカトリックの聖職者が多くの人々の死に対し責任を負っていたことや、反ユダヤ主義などの宗教的不寛容が殺人を認める動機付けになっていたことなどを明らかにしたという。
同じく70~80年代に軍事政権下にあったチリでは、多くの宗教者が軍事政権下の中で協力し、人権擁護活動を展開。ペルーでも、カトリック教会と福音派教会が協力するなどして、人権擁護活動を行った。シュチトニッキ氏は、こうした宗教者が和解において果たした役割が、各国の真実和解委員会による報告書の中で言及されていることを紹介した。
紛争当事国7カ国から参加者
会議の参加者は、ウクライナ、ロシア、ミャンマー、南スーダン、シリア、エチオピア、ブルキナファソなどの紛争当事国の宗教指導者と政府関係者、またWCRPに関係する国の宗教指導者ら。最初の開催地に日本が選ばれたのは、これらの紛争地域から一定の距離があり、「安心して意見交換できるスペース」を提供するため。「戦争を超え、和解へ」をテーマに、23日までの3日間の日程で行われ、一部はメディアに公開されるものの、他は非公開で行われる。
紛争当事国からの参加者は、安全のため名前や肩書は公開されていないが、ウクライナからはウクライナ正教指導者、宗教担当政府関係者、カトリック指導者が、ロシアからはロシア正教指導者の他、イスラム教とユダヤ教の指導者が参加する。キリスト教指導者はこの他、ミャンマー、南スーダン、シリア、エチオピアからも参加する。