安倍晋三元首相が街頭演説中に銃撃され死亡した事件を受け、世界平和統一家庭連合(旧称:世界基督教統一神霊協会=統一協会)の田中富広会長が11日、東京都内で記者会見を開いた。これまでの報道では、山上徹也容疑者(41)は、母親が特定の宗教団体に多額の献金をして経済的に破綻したことなどで恨みを持ち、団体と関係が近いと思った安倍氏を狙ったと供述しているとされている。田中氏は会見で、山上容疑者が協会に所属したことはないとしつつも、母親が過去に破綻した事実があることや、現在も正会員であることは認め、報道通りの動機で犯行が行われたのであれば、「重く受け止める」と語った。
田中氏によると、山上容疑者の母親は1998年ごろに協会に入会。しかし、2009年ごろから17年ごろまでは、協会側とは連絡が取れておらず、2、3年前から再び協会の行事に参加するようになったという。この半年くらいは、月に1回程度の頻度で協会の行事に参加しており、最近では2カ月前に1度、参加したことを把握しているという。母親が破綻したことについては、これまで把握していなかったが、事件を受けて調査したところ、02年ごろに破綻していたことが分かったという。
ただし、母親の入会当時や破綻した当時のことは20年余り前のことであり、まだ正確な情報を確認できていないと説明。母親について詳しく知る当時の協会員の存在も把握できていないとし、今後も調査を行うとした。
母親が協会に多額の献金をしたと山上容疑者が供述していることについては、現在警察が捜査中であるとし言及は避けるとした。ただし、警察の捜査に対しては全面的に協力すると述べ、献金額の公表は総合的に判断して行うとした。
協会と安倍氏の関係については、宗教法人としての関わりはないと否定。しかし、協会の「友好団体」で、協会と同じく文鮮明(ムン・ソンミョン、1920~2012)・韓鶴子(ハン・ハクチャ)夫妻が創設した「天宙平和連合」(UPF)には、安倍氏がメッセージなどを送ったことはあるとした。韓氏は現在、協会とUPFの両者の総裁を務めている。
また、協会として安倍氏を応援する政治運動は行っていないと説明。ただし、UPFから協力の依頼があれば、協会員が個々に政治運動を行うことはあるとした。しかしそれでも、協会員が安倍氏を応援する政治運動に関わっていることは聞いたことがないとした。
会見に参加した記者からは、事件現場には相当数の協会員がいたとされていると質問が飛んだ。田中氏は、そのような事実は把握していないとした上で、「協会員がたくさんいたとすれば、安倍氏ではなく、地元の候補者の応援だと思う。協会として(の応援)はないが、個人として(の応援)は可能性がある」と語った。
山上容疑者は、安倍氏の祖父である岸信介元首相(1896~1987)について、旧統一協会を「日本に招いた」人物だと供述しているとされる。岸氏と協会の関係については、「法人との関係というよりは、創設者の文鮮明、韓鶴子総裁が推進する(UPFの)平和運動に強く理解を深めてくださったと私は理解している」と述べ、安倍、岸両氏との関わりがあるとすれば、協会ではなくUPFだとの認識を繰り返し示した。
旧統一協会は1954年、韓国ソウルで創設。日本では59年から活動を始め、64年に東京都知事の認証で宗教法人となった。これまで霊感商法によるトラブルや、マインドコントロールによる勧誘活動などが社会問題となり、裁判も多数行われてきた。キリスト教系の新興宗教団体に分類されることもあるが、多くの日本のキリスト教会は、キリスト教の一教派とは認めていない。