静岡県熱海市の伊豆山(いずさん)地区を襲った大規模土石流の発生から1年を迎えた3日、発災翌日から現地で支援活動を続けるキリスト教系NGO「オペレーション・ブレッシング・ジャパン」(OBJ)が、被災地のために祈る集会をオンラインで開いた。集まった支援者らは、犠牲となった人々や遺族、今も苦しみの中にある被災者を覚えて祈りをささげた。
発災から1年たった現在も、OBJはスタッフを現地に駐在させ、地域に根ざした支援活動を続けている。現地でこの1年間、地域の子どもたちや高齢者に寄り添ってきたスタッフの南條吉輝さんは、「被害に遭われた方々には長い1年でしたし、今も心にダメージのある方がたくさんおられます。これからも、子どもたちから大人、おじいちゃん、おばあちゃんまで、年齢に関係なく、愛をシェアし、伝えていけたら」と話した。
発災直後から現場を指揮したスタッフの弓削恵則(ゆげ・しげのり)さんは、現地で知り合った高齢者の女性と、今も連絡を取り合っている。1年前、女性の住むアパートの目の前を土石流が流れた。命は取り留めたものの、コロナ禍の影響も重なって女性の生活は不安定になり、スタッフが声かけを続けてきたという。
「雨になると、またあの時の恐怖がよみがえってくるようです。特に大雨が降るときには、心配な心の思いを吐露されるメッセージが入ってきます。まずは、その思いを受け止めます。その上で、私たちが祈っていることをお伝えしています」
弓削さんは、伊豆山と熱海の海を見渡せる地にクリスチャンの墓所があり、墓石にヨハネによる福音書12章24節「一粒の麦は、地に落ちて死ななければ、一粒のままである。だが、死ねば、多くの実を結ぶ」が刻まれているのを知り、現場に来た支援者に紹介してきたという。「そういった歴史もこの地域にあるのだと思いながら、支援に当たっていました。その一粒の麦がこの地に落ちて、そこに命が行き交い、本当に弱い立場に置かれた方、その一匹の羊が救われるような支援をこれからも続けていきたい」と語った。
発災3カ月後から地域の子どもたちを対象にしたキッズクラブを開いている南條さんは、当時の子どもたちの様子について、「じっと座っていられない子もいたりして、ストレスを抱えている印象を受けました」と振り返った。回を重ねるごとに、子どもたちの様子に変化が表れてきたという。「あるお母さんからは、災害が起きて以来止まらなかった男の子の歯ぎしりが、キッズクラブに通うようになって止まったと聞きました。小学校高学年の子でも、最初は走り回ってばかりいたのですが、時間がたつにつれて、自分たちのやりたい遊びを楽しめるように変わっていきました」
災害によって外出する機会が減ったり、親族との関わりが薄れたりしている高齢者のつながりを支援するために、「シニアカフェサロン」も定期的に開いてきた。地元の団体と連携し、紙芝居やクラフト、インストラクターを呼んで体操を取り入れるなど、心と体の健康づくりにも取り組んでいる。また、地域の子ども食堂とも連携し、高齢者が地元の住民と一緒に弁当作りに参加し、一人暮らしの高齢者に届けるなど、「地域が地域を支える活動」を支援してきた。
南條さんは、一人暮らしの高齢者宅を一軒一軒訪問して回っている。「行くと喜んでくれて、たまっている思いを話してくださる方がたくさんいます。聞くことしかできないですが、その時間を大切にしています」。地域と被災者の心の回復のために祈りをささげた南條さんは、「どうしようもない感情のはけ口が分からなくなっている人たちも多くいます。あなたがその方たちのために働かれ、心に平安が与えられますように。これからも、愛をもってお一人お一人と接することができますように」と神に求めた。
最後にOBJ代表のドナルド・トムソンさんが祈りをささげ、「災害の多い日本において、私たちクリスチャンが共に立ち上がり、苦しんでいる方々にイエス様の愛を示すことができるように助けてください。熱海において、毎日さまざまな不安の中で今も生活している方々がいます。私たちの働きを通して、少しでもそういった方々がイエス様の愛と平安を知ることができるようにお助けください」と願った。
OBJは、継続するプログラムを8月までに精査し、住民と話し合いながら活動を地域に引き継いでいく計画だ。ただし、高齢者の見守りを兼ねたつながり支援の活動は、今後もOBJとして継続する考えだという。