インドネシアのキリスト教系ユーチューバーが、イスラム教徒を不快にさせる動画を投稿したとして、禁錮10年の判決を言い渡された。
判決を言い渡されたのは、2014年にキリスト教に改宗した元イスラム教徒のムハマド・ケイスさん(56)。自身がかつて信仰していたイスラム教を批判する動画を投稿していたことで、西ジャワ州のチアミス地裁が6日、検察の求刑通りに禁錮10年を命じた。
米迫害監視団体「国際キリスト教コンサーン」(ICC、英語)によると、判決の日には、ケイスさんに対する厳しい処罰を求めて、数千人のイスラム教徒が裁判所を取り囲んだという。
ケイスさんは昨年8月、バリ島でイスラム教の預言者ムハンマドを侮辱したとされる説教動画を投稿した後、逮捕された。カトリック系のUCAN通信(英語)によると、ケイスさんは動画で、「ムハンマドは悪魔に囲まれているため、神に知られておらず、信じる人々にしか知られていない」と発言。イスラム教団体がこれについて複数の苦情を申し立てていたという。
検察が禁錮10年を求刑した際、首都ジャカルタに拠点を置く人権団体「民主主義と平和のためのセタラ研究所」のボナール・ティゴール・ナイポスポス副会長は、キリスト教からイスラム教に改宗し、イマム(イスラム教の指導者)となったムハンマド・ヤヒア・ワロニさんが最近、キリスト教徒に対する同様の罪で有罪判決を受けたが、わずか禁錮5月だったことを指摘していた。
警察は、ケイスさんがイスラム教を侮辱する動画を少なくとも400本投稿したとしている。シャナン・タンジュン主任検事は法廷で、国民の不安をあおるためにケイスさんが意図的に動画を投稿したと主張。「これは非道な行為であり、厳しい判決を受けるに値する」と述べていた。
ICCによると、ケイスさんは拘置所で、汚職事件で同じ拘置所に収容されていたナポレオン・ボナパルトという警察官から殴られ、排泄物を食べるよう強要されるなどの嫌がらせを受けたという。
ケイスさんの弁護士を務めるマーティン・ルーカス・シマンジュンタク氏は、ケイスさんが判決を不服として控訴すると述べている。
国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」インドネシア支部の上級研究員であるアンドレアス・ハルソノ氏はICCに、「インドネシア政府は冒瀆(ぼうとく)法を速やかに廃止すべきです」とコメント。「キリスト教の説教者であるムハマド・ケイスさんも、イスラム教の指導者であるヤヒア・ワロニさんも、有害な法律のために一晩たりとも刑務所に入れられる必要はありません」と語った。
ICCの東南アジア担当アドボカシーマネージャーであるティモシー・カロザース氏は、次のように述べている。
「自分の意見を述べる権利は不可欠であり、保護されなければなりません。インドネシアの法律の下でこのような扱いと処罰が行われることは、恥ずべき現実です。インドネシアが規制や刑事訴追によって宗教的調和を強制し続ける限り、逆の結果を招き続けるでしょう」
インドネシアは、世界最大のイスラム人口を有する国だが、イスラム教は国教ではない。憲法は、唯一神への信仰、公正で文化的な人道主義、インドネシアの統一、合議制と代議制に基づいた民主主義、全国民に対する社会的公正、という五原則(パンチャシラ)を掲げている。しかし現実には、パンチャシラの精神に反する過激派が多く存在し、キリスト教会は、イスラム教以外の礼拝堂の建設を妨害しようとするグループからしばしば反対を受けている。