インド中部チャッティスガル州で、牧師が覆面をした男5人に刺殺される事件が発生した。現地の報道によると、警察は共産主義の過激派による犯行とみているが、現地のキリスト教徒らはヒンズー民族主義者による犯行を疑っている。
米迫害監視団体「国際キリスト教コンサーン」(ICC、英語)は、同州ビジャプール地区のアンガンパリ村に住むヤラム・シャンカル牧師(50)の自宅に17日、正体不明の男らが押し入り、牧師を室外に引きずり出して刺殺したと伝えた。シャンカル牧師には、妻と2人の息子、複数の孫がいたという。
インド最大の通信社「PTI通信」(英語)は、毛沢東主義者の過激派が、シャンカル牧師を警察の情報提供者と疑い殺害した可能性を伝えている。
当局者は同通信に対し、「現在入手している情報の限りでは、『ナクサル』とみられる毛沢東主義の武装集団がシャンカル牧師の自宅に押し入り、牧師を自宅から引きずり出し、鋭利な武器でその場で殺害した」と話し、現場には犯行を主張する手書きのメモが残されていたと付け加えた。
しかし、地元のキリスト教団体「チャッティスガル州進歩主義キリスト教同盟」(PCAC)は声明で、アンガンパリ村のキリスト教徒がヒンズー民族主義のグループから殺害の脅迫を受けていたことを指摘。毛沢東主義のグループ名を使えば、誰もが捜査を誤魔化すことが可能だと付け加えた。
ICCは、元村長であるシャンカル牧師について、バスタル・フォー・クライスト・ムーブメント教会の主任牧師で影響力があり、ヒンズー民族主義者の過激派から信徒を保護することで知られていたとしている。
地元のキリスト教徒はICCに対し、「この地域のキリスト教徒は、ヒンズー民族主義者の過激派による激しい迫害に遭っています」とし、「シャンカル牧師は何度か彼らから信徒を保護しており、それが今回の殺害という極端な形の迫害につながったのかもしれません」と語った。
地元のキリスト教徒らによると、事件の2日前には、ヒンズー民族主義者の過激派は「説教を続けるなら殺す」とシャンカル牧師を脅していたという。
60カ国以上で迫害を監視している米キリスト教団体「オープンドアーズ」によると、インドでは2014年にヒンズー民族主義を掲げるインド人民党(BJP)が政権を取って以来、キリスト教徒やその他の宗教的少数派に対する迫害が増加している。
キリスト教人権団体「ユナイテッド・クリスチャン・フォーラム」(UCF)によると、インドのキリスト教徒にとって2021年は同国史上「最も暴力的な年」であり、キリスト教徒に対する暴力的迫害が少なくとも486件発生したという。
UCFは、「暴徒たちが処罰されない」ため迫害が多発していると指摘。「そのような暴徒たちは、キリスト教徒を強制改宗の疑いで警察に引き渡す前に、犯罪的なまでに脅し、祈っている最中の人々に暴行を加えるのです」としている。また、警察は486件のうち34件しか正式な事件として扱っていないという。
オープンドアーズはインドの状況について、次のように報告している。
「ヒンズー過激派は、すべてのインド人はヒンズー教徒であるべきであり、この国からキリスト教とイスラム教を排除すべきだと考えています。彼らはこの目標を達成するために、特にヒンズー教の背景を持つキリスト教徒をターゲットにして、大規模な暴力を行使しています。キリスト教徒は、『外国の信仰』に従っているとして、また地域社会の不運の原因として非難されています」
インドは、総人口に占めるキリスト教徒の割合はわずか2・3パーセントで、ヒンズー教徒が約80パーセントを占めている。