庭野平和財団(東京都新宿区)は21日、宗教協力を通じて世界平和の推進に顕著な功績を上げた人物や団体を表彰する第39回庭野平和賞を、南アフリカの聖公会司祭で『記憶の癒し』の著者であるマイケル・ラプスレー氏に贈ることを発表した。ラプスレー氏は、アパルトヘイト(人種隔離政策)をはじめとする南アフリカの社会的差別に正面から立ち向かい、解放運動を支援。世界を舞台に、さまざまな平和構築活動に尽力してきた。
1949年、ニュージーランド生まれ。71年に聖公会の聖使修士会に入会し、73年にオーストラリア聖公会の司祭として按手(あんしゅ)を受けた。同年、アパルトヘイトのさなかにあった南アフリカに派遣され、東部の都市ダーバンの大学チャプレンに就任。黒人に対する差別の実態と学生たちによる解放闘争を目の当たりにし、反アパルトヘイト運動に参加する。南アフリカから追放されるが、それを機に世界中を巡回しながら運動を支援する力を結集していった。
90年、手紙に仕掛けられた爆弾によって両手と右目を失い、重度のやけどを負ってしまう。しかし、犯人への憎悪や諦めの感情に支配されることなく、非暴力による平和構築には癒やしと和解が不可欠だと気付いたことで、「自由の戦士」「反体制活動家」から「治癒者」へと変容していった。
93年に「暴力と拷問の被害者のためのトラウマ治癒センター」チャプレンに就任。98年には、ケープタウンに「記憶の癒やし研究所」を設立した。以来、南アフリカのみならず世界各国で排外主義や難民への暴力に反対する地域フォーラム、受刑者を対象にしたワークショップ、青少年に対する人権教育などを実施。不正義と差別にさらされた人々に向けて「記憶の癒やし」ワークショップを開き、自らの体験を語り、傾聴を求めることができる分かち合いの場を提供してきた。また、人種差別は南アフリカ一国の問題ではないとし、米同時多発テロの遺族らと共に団体を設立するなど、国境を越えた非暴力によるテロ対策活動にも取り組んでいる。
庭野平和賞委員会のランジャナ・ムコパディヤーヤ委員長は贈呈に当たり、「ラプスレー司祭の霊性の源泉は、自らの周りで目撃した社会的不平等に起因する不正義、苦痛、苦難への洞察にある」と指摘。「その霊性は、聖書の理解に基づき、すべての人が正義を得られる社会の探求へと彼を導いた。それ故、彼の言葉は、キリスト教に基づきながらも普遍的であり、あらゆる宗教に通底する響きを持つ。対話と和解、そして正義の回復に向けたアプローチを基盤に、非暴力かつ諸宗教に通ずる平和構築の努力と癒やしの活動を続けることで、ラプスレー司祭は、南アフリカ国民のみならず世界中の多くの人々に癒やしを提供している」と功績をたたえた。
贈呈式は6月14日。ラプスレー氏には正賞の賞状のほか、副賞として顕彰メダルと賞金2千万円も贈られる。