庭野平和財団(庭野浩士理事長、東京都新宿区)は19日、第35回庭野平和賞を中東レバノンのNGOである「アディアン財団」に贈ることを発表した。同財団は、キリスト教徒とイスラム教徒の5人によって創設された団体で、シリア内戦で傷ついた人々のために平和と和解を促進するプログラムを提供するなど、レバノン国内外で宗教的対立を超えた和解を目指す活動を行っている。
庭野平和賞は、宗教協力を通じて世界平和の推進に顕著な功績を上げた人物や団体に贈られる賞。第2バチカン公会議以来、「諸宗教との対話・協調」路線推進に尽力してきたヘルダー・ペソア・カマラ大司教(ブラジル、第1回)や、反アパルトヘイトなどで功績を上げた世界教会協議会(WCC)元総幹事のフィリップ・アルフレッド・ポッター氏(ドミニカ、第4回)ら、キリスト教関係者の受賞も多い。昨年は、ルーテル世界連盟(LWF)議長で、ヨルダン聖地福音ルーテル教会監督のムニブ・A・ユナン氏が受賞した。
レバノンはイスラエルとシリアの間に位置し、侵略や内戦の長い歴史を持つ。また、入り組んだ宗教事情もあり、過激主義の拡散などに宗教が利用され、宗教間の対立が際立っていた。そのような中、古典的で制度化された宗教間対話を超えた働きが必要だとし、2006年にアディアン財団が創設された。理事長のファディ・ダウ氏はマロン典礼カトリック教会の神父で、副理事長はイスラム教徒の大学講師であるナイラ・タバラ氏。初めは両氏ら5人だけだったが、活動開始から10年で、13カ国3千人以上が関わる働きとなった。現在は、研究、メディア、コミュニティー、シンクタンクの「ラシャド文化ガバナンスセンター」の4部門を柱に活動している。
11年にはレバノンの市民平和賞を受賞、13年には国連「文明の同盟」とアゼルバイジャンから「多様な世界における平和な共生」賞を贈られている。また16年には、ローマ教皇庁諸宗教対話評議会(PCID)とアブドラ国王宗教・文化間対話国際センター(KAICIID=カイシード)と協力し、ローマで諸宗教シンポジウムを開催している。さらにレバノンでは、教育・高等教育省などと協力し、同財団が提唱した概念に基づく学校教育カリキュラムの改革に向けた作業を行うなど、政府との連携も進めている。
庭野平和賞委員会のノムファンド・ワラザ委員長は、同財団について「草に根レベルでの変化に焦点を当てることを疎かにせずに、学術的な研究と政策提言を行う能力を備えたことがアディアンの主要な業績の一つ」と評価している。
授賞式は5月9日に国際文化会館(東京都港区)で開催される。同財団には正賞の賞状のほか、副賞としてメダルと賞金2千万円も贈られる。また、当日は同財団代表による記念講演も予定されている。
レバノンの宗教:イスラム教が60%(シーア派27%、スンニ派27%、ドルーズ派6%)、キリスト教が34%(マロン派21%、ギリシャ正教8%、ギリシャ・カトリック5%)と、各宗派の勢力が入り組んでいる(共同通信社『世界年鑑2017』)。アディアン財団理事長が神父として所属するマロン典礼カトリック教会(マロン派)は、ローマ・カトリック教会に帰属するものの、組織や典礼は独自の伝統を継承する東方典礼カトリック教会。その中でも最も有力な一派で、レバノンを中心に、シリア、パレスチナ、キプロス、エジプトなどの中東地域のほか、北南米大陸などに分布している。また、レバノンの大統領と国軍司令官はマロン派から選出される慣例になっている。