中米ニカラグア唯一のキリスト教テレビ局に対して9日、放送資格の剥奪が命じられた。同国では7日に大統領選が行われ、現職のダニエル・オルテガ大統領が4期連続、5回目の当選を果たした。しかし選挙前には、野党3党の政権資格が剥奪され、反体制派の有力者ら30人以上が逮捕されるなどしており、欧米諸国は選挙結果を批判している。キリスト教テレビ局の代表で、カミノ・クリスチアノ(「キリストの道」の意)党から大統領選に出馬したギレルモ・オソルノ牧師は、選挙の不正を批判しており、放送資格の剥奪は報復の可能性がある。
放送資格の剥奪を命じられたのは、スペイン語圏の国際キリスト教衛星通信ネットワーク「エンラーセ」のニカラグアにおけるテレビ局「チャンネル21」。福音派のキリスト教メディア「エバンジェリカル・フォーカス」(英語)によると、チャンネル21は同日、声明を発表。ニカラグアの電気通信・郵便サービスの規制機関であるTELCORの職員が、定期検査を理由にチャンネル21の事務所を訪れ、放送資格の剥奪を命じたという。
チャンネル21は、「私たちは、適性に運営していることを証明する証拠をTELCORの事務所に持参したが、彼らは恣意的に私たちの放送資格を取り消した」としている。
チャンネル21のディレクターであるレベッカ・オソルノ氏は、「このチャンネルは1日24時間イエス様のメッセージを伝えていますが、政治的な問題にはまったく関与したことがなく、驚いています」とコメント。「この政府には何も言えません」と言い、「これは報復です。彼(ギレルモ・オソルノ牧師)を刑務所に送る代わりに、チャンネルを乗っ取ってしまいました。ひどい決定です」と批判した。
チャンネル21は声明で祈りを求めるとともに、「救いの良き知らせがこの国で沈黙することはありません。神の助けがあれば、私たちはすぐにでも放送を再開し、オープンなテレビ電波を発することができるでしょう」と述べている。
ニカラグア現地で取材をしているフォトジャーナリストの柴田大輔氏の報告によると、同国では政治家だけでなくメディアに対する弾圧も激化。2018年に廃刊に追い込まれた全国紙の元記者の声や、95年の歴史がある同国の日刊紙も、政府の圧力により新聞発行を断念し、ウェブのみの運営になっていることを伝えている。
ニカラグアは、新米派のソモサ一族による独裁が43年続いていたが、オルテガ氏らが率いたサンディニスタ民族解放戦線(FSLN)による革命で崩壊。その後、政府は左傾化し、右派ゲリラとの間で内戦化が進んだ。オルテガ氏は85年に大統領となるが、90年の選挙で大敗。その後の2度の選挙でも敗れるが、2006年の選挙で勝利し、翌年から現職を務めている。
柴田氏の報告によると、再び大統領となったオルテガ氏は独裁色を強め、党内の反対派を排除し、メディアを買収して政府の支配下に置くなどした。また、最高裁の判事や最高選挙管理委員会に自身の親近者を就かせ、大統領の連続再選を禁じた憲法を改正し無限再選を可能とした。さらに2017年には、妻のロサリオ・ムリーリョ氏を副大統領に就かせるまでしている。