深刻な経済危機と政情不安により、聖書の価格が国民の平均的な給料の6カ月分相当にまで高騰している南米ベネズエラにこのほど、約3万冊の聖書が寄贈され、現地の諸教会を通して配布された。
聖書を寄贈したのは、米キリスト教出版・商品大手のライフウェイ・クリスチャン・リソーシーズ。発表(英語)によると、今年8月にスペイン語のレイナ・バレラ訳聖書9種約3万冊を発送し、10月から12月にかけてベネズエラの19州で、現地の約2200教会を通じて配布した。
ライフウェイ社のスペイン語部門営業・マーケティング部長であるセザール・カストディオ氏は、「私たちは長年にわたり、ベネズエラのような国々のために商業パートナーを通じて奉仕してきました。しかし、この美しい国がここ数年の間に経験してきた状況のために、この働きは複雑なものとなっています」と語る。
ベネズエラは原油の確認埋蔵量世界1位の国で、1950年代は南米トップクラスの高所得国だった。しかし、富を独占する富裕層に対する不満から、90年にチャベス前政権が誕生すると、「21世紀の社会主義」を掲げ、経済に対する政府の介入が始まる。マドゥロ現政権もこの政策を引き継ぐが、経済成長率はマイナスに。さらに原油価格の暴落がベネズエラ経済を直撃した。2018年にはインフレ年率が170万パーセントに達し、国連の19年6月の発表によると、国民の8人に1人に相当する400万人以上が国外へ避難したとされている。
今回の聖書配布は、ベネズエラ福音同盟(CEV)と協議を行い、現地の信頼できるパートナー教会を探すことから始まった。各州の教会指導者は、優先して聖書を配布すべき人のリストを作成。各教会で「聖書フェア」や「聖書月間」などのイベントを開き、聖書を持っていない教会員や新しい信者に優先的に配布した。また、大文字の聖書は高齢の教会員に、注解付き聖書はスタディバイブルや注解書を持っていない牧師に、「カラーマックス」と呼ばれるデザイン性の高い聖書は、経済基盤が弱く家族が聖書を持っていない、あるいは新しく信者になった10~18歳の若者に優先的に配布するよう工夫した。
ベネズエラには、注解書を持っていなかったり、使い古したボロボロの聖書しか持っていなかったりする牧師たちが何千人もおり、多くの牧師たちが今回、新しい聖書を手にすることができた。また交通機関が機能していないため、聖書を受け取るために何キロも歩いて来た若者たちもいた。さらに今回の配布では、2つの先住民のグループにも聖書が配られたという。
ベネズエラの刑務所で受刑中のルイスさん(仮名、26)も聖書を受け取った一人だ。ルイスさんは最近、刑務所の中でイエス・キリストを受け入れたばかりで、「私は聖書を持っておらず、これは想像もしてなかったプレゼントです」と語った。
カストディオ氏は、「(ライフウェイ社がある)テネシー州ナッシュビルにおける私たちの働きが、ベネズエラの人々の生活を祝福することができることは、大きな喜びです。私たちの心と祈りはベネズエラの教会と共にあります」と語った。