米国の宇宙飛行士、ビクター・グローバーさん(44)は現地時間15日(日本時間16日)、米宇宙開発企業「スペースX」が開発したカプセル型有人宇宙船「クルードラゴン」運用1号機(愛称「レジリエンス」)に乗り込み、国際宇宙ステーション(ISS)に向かった。クルードラゴンは、米航空宇宙局(NASA)と米連邦航空局が初めて認可した民間宇宙船だ。
アフリカ系米国人の宇宙飛行士としては史上初の長期ミッションとなるが、クリスチャンのグローバーさんは、聖書と聖餐の杯を携えてクルードラゴンに搭乗した。クルードラゴンには強力なインターネットシステムが搭載されており、グローバーさんはそれを用いてインターネット礼拝にも参加する予定だという。
グローバーさんは他の乗組員3人(うち1人は日本の野口聡一さん)と共に、低地球軌道上を航行するISSに到着。乗組員は来年春までISSに滞在した後、地球に帰還する。
聖書を読み祈ることを習慣とするグローバーさんは10日、米キリスト教紙「クリスチャン・クロニクル」の動画インタビュー(英語)に応じ、ISS滞在中に「インターネット礼拝」や「インターネット献金」にも参加する予定だと語った。
グローバーさんは16日午後1時前、クルードラゴンから最初のツイート(英語)をした。
「行け、行け、クルードラゴン。その調子だ、レジリエンス。NASAとスペースXのチームの皆さん、私たちを無事に打ち上げてくれて本当にありがとう。これからISSに向かいます」。クローバーさんはそう書き込み、打ち上げられたロケットの写真を数枚添付した。
今回が初の宇宙飛行となるグローバーさんは、米海軍飛行士だった故ジョン・マケイン上院議員(共和党、アリゾナ州)の立法補佐官を務めた後、イラクで海軍所属のFA18戦闘機のパイロットを務めた。
「私は出掛けたり、飛行機に乗ったりする前に祈ることにしています。また、いつも家族のことを考えています」とグローバーさんはインタビューで話した。
妻のディオナさんとは18年連れ添っており、2人には4人の子どもがいる。
クリスチャン・クロニクルによると、ディオナさんはサンフランシスコ湾沿いにあるチャーチ・オブ・クライストの教会で育ち、カリフォルニア工科大学で出会ったグローバーさんを教会に導いた。
「学問的な知識だけでなく信仰を持っていて本当によかったと私が心から思い始めたのは、夫婦で子育てをしていたときでした」とグローバーさんは話す。
2人はヒューストン近郊にあるチャーチ・オブ・クライストの2つの教会、リーグ・シティー教会とサウスイースト教会に出席しており、新型コロナウイルスの感染拡大以降はオンラインで礼拝に参加しているという。NASAは、ヒューストン南部のクリアレイク地区に本部のジョンソン宇宙センターを置いている。
グローバーさんは乗組員4人の中で操縦士として搭乗しているが、クルードラゴンを誘導するフライトコンピューターに信頼を置いている。クルードラゴンはすでに5月の試験飛行で他の宇宙飛行士2人をISSに輸送しており、今回は2回目の有人飛行となる。
「私は、フライトコンピューターを使うことに不安はありません」「コンピューターは本当に頼りになります」とグローバーさんは米CBSニュース(英語)に語っている。「私はスティック・アンド・ラダー型の(=時間をかけて操縦技能を習得した)パイロットなので、初めはタッチスクリーンのディスプレイや自動制御に多少の不安はありましたが、今回のミッションでこの装置を使えて本当に感謝しています」
グローバーさんは動画インタビューに、マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師や詩人のマヤ・アンジェロウ、公民権運動家のローザ・パークス、先駆的な教育者として知られるジョージ・ワシントン・カーバー、名高きボクサー、モハメド・アリの名が記された黒のトレーナーを着て登場した。いずれも米国史を代表するアフリカ系指導者で、アリを除いて全員がクリスチャンだった。
「神様は、私の愛国心を疑っておられません。私は米国人で、私たちは米国に生まれて恵まれています」とグローバーさん。「私たち全員が認識しておくべきです。(中略)私たちはみな歴史的遺産の一部分ですから、(中略)一人一人にやるべき仕事があると思うのです。それは、過去の事実が欠けることなくすべて伝えられているかどうかを確かめるという仕事です」
グローバーさんと共に搭乗したのは、今回が3回目の宇宙飛行となる野口さんと、いずれも2回目の宇宙飛行となる白人男性のマイケル・ホプキンスさんと、白人女性のシャノン・ウォーカーさん。今回4人が加わったことで、ISSの人員配備は十分なものとなるとみられる。
NASAは、スペースシャトル計画終了後、宇宙飛行士をISSに輸送することが難しくなり、一度で運べる最大人数が13人から3人に激減した。クルードラゴンが宇宙飛行士の民間輸送船として初めて認可されたことから、NASAは1座席当たり最大で9千万ドル(約93億5千万円)もかかるロシアの有人宇宙船「ソユーズ」を使用した輸送システムへの依存を脱したい考えだ。