6月の選挙によって、イブラヒム・ライシ氏が投票過半数を獲得して、イランの次期大統領に決まった。新大統領の就任は今月の予定だ。
実は、このライシ氏は「絞首刑人」「テヘランの虐殺者」などの異名を持ち、残虐な男として知られている。彼が司法官を務めていた1988年、裁判もなく数千人の政治犯が秘密裏に処刑されたのだが、ライシ氏は当時、事件の当事者である「死の委員会」のメンバーの一人だった。国連は、事件についての独立調査を要求しており、米国はライシ氏を制裁対象として指定している。
今回の選挙は、史上最低水準の投票率だった。選挙プロセスは支配者側に操作されており、汚職や不正と戦う支配者側に都合の悪い候補者は、選挙資格を失うように仕組まれている。今年立てられた立候補者総数592人中、投票用紙に名前が記載されたのは、支配者側に都合の良いわずかに7人だけだった。つまり、ライシ氏の当選は仕組まれた出来レースなのだ。低い投票率は、選挙に対する国民の不満の表れだ。
現在イランは、全体のわずか10〜15%程度の少数派によって支配されている。そこで支配層としては、民衆を「恐怖」でコントロールする必要に駆られ、穏健派のロウハニ氏に替えて、残虐な強硬派のライシ氏を擁立したと思われる。ライシ氏は、トランプ政権のもと破棄された2015年の核合意への復帰を目指すとされており、これについては、イランと対立関係にあるイスラエルおよび、サウジアラビアを中心とするスンニ派アラブ諸国は警戒感を強めている。ライシ氏の大統領就任は中東情勢の不安定化の要因になると見られる。
一方で、イラン国内のキリスト信者への圧力も高まっており、イランの司法当局は6月下旬、イスラムから改宗した3人のキリスト信者に禁固5年を言い渡した。これは2月に可決された新法によるもので、これまで改宗は6カ月の懲役で済んだが、今後はキリスト教への改宗も含め、シーア派からの離脱は国家安全保障に反するカルト扱いとなり、イスラムの強制再教育が加えられることもあり、最高で5年の懲役刑になる見通しだ。
今回判決が言い渡された3人の改宗者は、ライシ次期大統領政権の方向性を示す示威的見せしめとしての処分として理解できる。ライシ氏は以前「家の教会は反安全保障を目的としたシオニスト教団に属する敵対集団だ」と述べており、真摯(しんし)な信仰を持つ家の教会グループを特に敵視している。
新法のもとでは、警察が宗教的少数派を、個人的にもオンラインでもターゲットにすることを可能にしている。加えてイラン諜報機関は、拘束された改宗者の情報提供を促すため、積極的に恩赦や賄賂などの手段を使って懐柔を試みるだろう。
世界で最も成長しているイランの教会にとっては、ライシ政権下で厳しい時代を迎えることが予測される。しかし、迫害をバネとして成長してきたイランの教会だ。主はきっと、この新たな試みも次の成長のための導火線として用いてくださるだろう。
霊的な勢力図において、21世紀はイランの世紀だといわれている。イランの兄姉が、迫害の北風をバネに成長を遂げ、イランで教会が拡大するよう祈っていただきたい。
■ イランの宗教人口 ※2010年の統計
イスラム 98・6%
プロテスタント 0・2%
カトリック 0・05%
英国教会 0・01%
ユダヤ教 0・02%