2015年にリビア北部の都市スルトの海岸で過激派組織「イスラム国」(IS)に斬首されたコプト教徒21人の1人でガーナ人のマシュー・アヤリガさんの遺骨が、5年余りの月日を経てエジプトに返還され、他の20人と共に安置された。
エジプト人ジャーナリストのファリド・Y・ファリド氏は9月29日、自身のツイッター(英語)に「5年余りも引き取られていなかった彼の遺骨が本日、エジプトに到着し、ようやく他のコプト教徒の兄弟たちと共に安置されました」と投稿した。多くのコプト教徒の読者を持つエジプトの週刊紙「ワタニ」の記事(アラビア語)のリンクも添え、殉教したコプト教徒の遺族らがアヤリガさんの遺骨を歓迎したことを伝えた。
「私たちは喜びのあまり泣き崩れました。殉教者マシューは、私たちにとっていとおしい存在だからです。彼は私たちの子どもの一人です。なぜなら、彼は私たちの子どもと共に殉教し、キリストに従い通したからです」。ISに子どもを殺された母親はワタニに語った。「私たちは主に感謝しています。主はマシューの遺骨を戻してくださり、教会で彼の(兄弟たち)の隣に安置してくださったからです」
21人のコプト教徒たちは故郷の家族を支えるため、出稼ぎに出ていたスルトでISに拉致された。ISが公開した動画には、斬首を前にスルトの海岸で黒い覆面をしてナイフを構えるISの戦闘員21人の前にひざまずくコプト教徒たちの姿が映されていた。そのうちの幾人かは静かに祈っている様子も見せていた。
ISがイラクやシリアで撮影した他の処刑動画と同様、コプト教徒たちを撮影したその動画も、捕虜を虐殺するISの残虐さを世界に知らしめた。21人が殺害される動画は、イラクやシリア、エジプト、リビア、アフガニスタンなどでISのテロ活動が最も活発だった時期に公開された。
迫害下にある世界中のキリスト教徒を支援している英団体「バーナバス・ファンド」は、アヤリガさんの遺骨返還のニュースを歓迎した。
バーナバス・ファンドの声明(英語)によると、アヤリガさんは処刑動画の中で、ISの戦闘員の1人から「お前はキリストを否むか」と尋ねられ、イスラム教に従うよう要求された。しかしアヤリガさんは、浜辺で自身の隣に並ぶ兄弟たちに言及し、「彼らの神は私の神だ」と答えたという。その直後、アヤリガさんは斬首された。
バーナバス・ファンドによると、エジプト人殉教者20人の遺体は2018年5月に祖国に返還されたが、ガーナ人であるアヤリガさんの遺体は返還が請求されなかったため、リビアに残されたままだった(関連記事:リビアでISに斬首されたコプト教徒20人の遺体、エジプトに帰還)。しかし今年9月になって、リビア当局がアヤリガさんの遺骨をエジプトのコプト正教会に引き渡し、他の殉教者と共に安置されることになった。
21人の殉教者はコプト正教会によって聖人として列聖され、彼らの死はコプト教徒の間で記憶に留められている。
殉教者21人のうち13人の出身地であるエジプト中部ミニヤ県のアウル村は、質素な村だったが、今では多くのコプト教徒が訪れる地となっている。
エジプトのアブデルファタハ・シシ大統領の指示により、アウル村には2018年、殉教者21人の安息の地として「信仰と祖国の殉教者教会」が建てられた。さらに今年2月には、殉教者たちの遺品を展示し、彼らが拉致・処刑された当時の詳細を紹介する博物館もオープンしている。