過激派組織「イスラム国」(IS)に忠誠を誓うナイジェリアの武装勢力「イスラム国西アフリカ州」(ISWAP)が、キリスト教徒11人を処刑する映像を公開した。映像が公開されたのは、クリスマス翌日の26日。映像では「世界中のキリスト教徒へのメッセージだ」と警告。処刑は、ISの最高指導者アブ・バクル・アル・バグダディ氏と、その後継者とされていたISの広報官アブル・ハサン・アル・ムハジール氏が米軍による作戦で死亡したことへの報復だとしている。
米ニューヨーク・タイムズ紙(英語)やロイター通信(英語)によると、映像は複数のチャンネルで公開された。ISWAPなどのイスラム過激派に関する報道を行っているナイジェリアのジャーナリスト、アフマド・サルキダ氏に送られた映像は56秒のものだった。映像では、目隠しをされ、オレンジ色の服を着せられた11人がひざまずき、その後ろに覆面姿の戦闘員11人が並んでいた。そして最初に中央の戦闘員が自分の前にいる1人を銃殺し、その後他の戦闘員が10人を斬首したという。
IS系のアマク通信で公開された映像では、男がアラビア語と、ナイジェリアで使われているハウサ語で、「これは世界中のキリスト教徒へのメッセージだ」と警告。「われわれの前にいるのはキリスト教徒だ。われわれは、彼らの血を流す。誇り高き2人のシャイフ(イスラム教の長老)――われわれのカリフ(イスラム教の預言者ムハンマドの後継者)と、ISの広報官でシャイフであったアブル・ハサン・アル・ムハジールの報復のために。アラーが彼らを受け入れられますように」と述べた。
カリフを自称したISの最高指導者バグダディ氏は10月26日、米軍がシリア北西部イドリブ県で行った急襲作戦で追い詰められ自爆。また、後継者とされていたムハジール氏は翌27日、イドリブ県に隣接するアレッポ県のトルコとの国境近くで、米軍の空爆により死亡した。
映像の公開を受け、ナイジェリアのムハンマド・バハリ大統領は28日、ツイッターにISWAPを非難するコメント(英語)を投稿した。「われわれは、テロリストたちがキリスト教徒にイスラム教徒への反感を持たせることで分断をもたらすことを決して許してはならない。なぜなら、彼ら野蛮な殺人者たちは、イスラム教や、世界中にいる法律を遵守する他の何百万人ものイスラム教徒を代表していないからだ」などと呼び掛けた。
世界教会協議会(WCC)のオラフ・フィクセ・トヴェイト総幹事も29日、声明(英語)を発表。「キリスト教徒をイスラム教徒に敵対させることで、ナイジェリアの人々を分裂させようとするこれらの試みを、最も強い言葉で非難する」と述べた。
一方、ニューヨーク・タイムズ紙によると、殺害された11人について、ナイジェリアの複数の専門家は、ISWAPのこれまでのケースから、一部はイスラム教徒の可能性もあると見ている。
ロイター通信が確認した映像は、インスタント・メッセージ・サービス「テレグラム」でISが運営するニュースチャンネル上で公開された。この映像には音声はなく、アラビア語の字幕が付いているだけだった。また同通信は、これよりも前に別の映像を確認しており、それによると11人はナイジェリア北東部ボルノ州の州都マイドゥグリと北東部ヨベ州の州都ダマトゥルで拘束された。11人はこの映像の中で、ナイジェリア・キリスト教協会(CAN)とバハリ大統領に助けを求めていたという。
ISWAPは2016年、主にナイジェリアで活動するイスラム過激派組織「ボコ・ハラム」から分裂した。国際NGO「国際危機グループ」(ICG、英語)によると、3500~5千人の戦闘員がいるとみられている。ロイター通信によると、ナイジェリア北部ではこうしたイスラム過激派の活動により、この10年で3万人近くが殺害された。