ナイジェリア中部の「中央ベルト」と呼ばれる地域で今年、イスラム教徒が主体の遊牧民「フラニ族」や、イスラム過激派組織「ボコ・ハラム」の相次ぐ襲撃により、千人以上のキリスト教徒が殺害されたことが分かった。英国に拠点を置くNGO「ヒューマニタリアン・エイド・リリーフ・トラスト」(HART)が発表した報告書で明らかにした。
HARTは、英国のバロネス・コックス上院議員(82)が「紛争と迫害に苦しむ人々を支援する」ために設立したNGO。最近、ナイジェリアに派遣した調査団から得た詳しい情報や証言を伝える報告書「土地を取るか、体を取るか:ナイジェリア北部および中部で急増するキリスト教徒に対する迫害と強制退去」を発表した。
同報告書は、「フラニ族のイスラム民兵が、プラトー州やベヌエ州、タラバ州、カドゥナ州南部、バウチ州の一部で、積極的かつ戦略的な土地占拠政策に従事している」と指摘。「彼らは農村部の村々を襲い、村人をその土地から追い出し、そこに定着する。その戦略を象徴する言葉は『お前の土地か、それとも血か』である」と伝えている。
フラニ族は、主に西アフリカから中央アフリカに広がるイスラム教徒を主体とした遊牧民で、人口は約2千万人と推定されている。土地の希少性が増し、人口が増える状況の中で、フラニ族はキリスト教徒の農民と長期的な緊張関係にあった。
遊牧民と農民間の衝突は目新しいものではないが、農民に対する暴力は近年、深刻さを増しており、この数年間で数千人が殺害されている。
HARTは報告書で、2019年の正確な死者数はまだ明らかではないが、「中間データは、(今年)1月以降に殺害されたキリスト教徒が千人を超えることを示している」と指摘している。さらに2015年以降に殺害されたキリスト教徒は6千人を超え、1万2千人が居住していた村から避難したと推定している。
「私はこれまで、被害を受けたさまざまな場所を訪れてきましたが、殺人や家屋の破壊といった惨劇を見てきました」とコックス氏は声明で述べた。「どの村に行っても、地元の住民から聞かれる声は同じです。『どうか、助けてください。フラニ族がやって来ます。自分の家に住んでいる私たちは安全ではありません』」
ナイジェリア中部のカドゥナ州では今年、フラニ族による襲撃が増加した。一方これに先立ち、フラニ族の居留地に対する報復攻撃があり、131人が殺害されたとして、キリスト教徒側が非難されていた。
報告書によると、カドゥナ州では1月から11月の間に「5件の大規模な襲撃」があり、合計500人の死者が出たという。
HARTの広報担当者はクリスチャンポストに対し、報告書で述べられている千人を超える死者は「プラトー州やカドゥナ州南部、タラバ州でフラニ族によって殺害された人々が大半を占める」が、ボルノ州のボコ・ハラムによる殺害も含まれると語った。
これらの死者数の一部は、2月と3月に発表されたカドゥナ州政府による報告や、メディアの報道、そしてプラトー州の地域社会の指導者らからの報告に基づいている。また、この数字にはボコ・ハラムによって殺害された警備員や兵士の数も含まれている。これらの警備員や兵士も、キリスト教徒だと考えられているためだ。
一方、ナイジェリアに拠点を置くNGO「インターソサエティー」は昨年、ナイジェリアでは2018年に少なくとも2400人のキリスト教徒が殺害されたとする報告書を発表している。
国際人権NGO「ジュビリー・キャンペーン」は7月、ナイジェリアにおけるフラニ族によるキリスト教徒の農民に対する襲撃は「大量虐殺の水準に達している」と警鐘を鳴らす報告書を、国際刑事裁判所に送付している。ジュビリー・キャンペーンはこの報告書で、今年の上半期にキリスト教徒の農村に対して52件もの襲撃事件があったことを強調していた。
ナイジェリアの中央ベルトにおける暴力の増加については、宗教的要素が軽視されてきた一面がある。また暴力の一部は、数十年にわたる遊牧民と農民間の衝突がエスカレートしたものだとする声もある。確かに遊牧民による暴力は、遊牧民が放牧ルートとして伝統的に使ってきた土地に農民が定着してから増加している。
中央ベルトにおける暴力の根底にある要因は複雑ではあるが、キリスト教徒中心の農村に対する暴力は、「宗教とイデオロギーが重要な役割を果たしていることを示唆している」とHARTは報告書で強調している。HARTによると、牧師や農村の指導者らが襲撃の標的となることが頻繁にあり、破壊された教会堂は数百軒に上るという。
「時として、襲撃が報復合戦につながる場合がある。農村の保護や正義を政府に頼ることはもはやできないと農民らが結論付けているためだ」とHARTは報告書で述べている。しかしその一方で、「(報復合戦の)規模や残虐さが同等であることを示す証拠は一切見られなかった」とも述べている。
HARTは報告書で、生存者の証言も紹介している。
「自宅は破壊されました。病院は焼かれました。彼らは、薪のように椅子を積み上げ、教会の屋根を燃やそうとしました」と、カラマイ村出身のアントニア・アジェさん(38)はHARTに語った。「恐ろしい生活を送っています。新たな襲撃のメッセージを受け取ることがあります。だから私たちは、逃げて身を隠します。防衛手段がないのです。身を守る武器はありません。警備員や自警団のサポートはありません」
村人たちの助けを求める叫びは、いつになっても「無視されている」とコックス氏は語気を強めた。「何かを変えなければなりません。今すぐに」とコックス氏。「虐殺を容認すればするほど、加害者をのさばらせることになります。彼らに殺害を続ける『ゴーサイン』を与えてしまうのです」
迫害監視団体「米国オープン・ドアーズ」は、キリスト教徒に対する迫害のひどい国をまとめた「ワールド・ウォッチ・リスト2019」で、ナイジェリアを迫害がひどい12番目の国に位置付けている。