イラク北部の都市モスルのナジーブ・モウサ・マイケル大司教(カルデア典礼カトリック教会、ドミニコ会士)が、今年の「サハロフ賞」の受賞候補に指名された。モウサ大司教は、過激派組織「イスラム国」(IS)がモスルに侵攻してきた際、市民の避難を助けただけでなく、貴重な歴史的写本約800点の保護にも尽力した。同賞を主催する欧州議会が17日、公式サイト(英語)で発表した。
サハロフ賞は、人権と思想の自由を守るために献身的な活動をしてきた個人や団体に贈られる賞。欧州議会が1988年に創設した。賞名は、旧ソ連の反体制運動家であった物理学者アンドレイ・サハロフ氏に由来する。これまでに、南アフリカのネルソン・マンデラ元大統領や「国境なき記者団」などが受賞している。昨年は、国家分裂罪に問われ服役している中国のウイグル人経済学者イリハム・トフティ氏に授与された。
2014年8月、ISがイラク第2の都市モスルに侵攻してきた際、モウサ大司教(当時は司祭)は、キリスト教徒だけでなくシリア人やカルデア人の避難も助け、さらに危険が迫る中、13~19世紀の貴重な写本約800点もクルド人自治区の主都アルビルに移送して保護した。アルビルでの避難生活中には、これらの写本のデジタル化を進め、保護された写本は後にフランスとイタリアで展示されている。この他、古文書の保護に長年取り組んできたモウサ大司教は1990年以降、写本約8千点と東方教会の文書約3万5千点の保護に貢献してきたという。
カトリック系のアジア・ニュース(英語)には、「遺産のない民族は死んだ民族」と述べ、人々を殺害するだけでなく、民族の歴史が刻まれた遺産をも破壊したISの脅威を強調した。また、受賞候補への指名は「個人的な評価ではなく、イラク全体のための評価」と指摘。過去何年にもわたり、戦争とジハード主義者の暴力に苦しんできたイラクの人々、また消失の危険にさらされている遺産を保護するために働いている人々のためのものだと語った。
今年の受賞候補にはこの他、▽8月の大統領選後、混乱が続いているベラルーシにおける調整評議会主導の民主的抗議運動、▽2016年に暗殺された中南米ホンジュラスの先住民環境活動家ベルタ・カセレス氏とグアピノル村の活動家、▽同じくベラルーシにおける元大統領候補者スビャトラーナ・ツィハノウスカヤ氏主導の民主的抗議運動、▽ウェブサイト「アトラス・オブ・ヘイト」を創設したポーランドのLGBTI活動家4人が指名された。
受賞者の発表は10月22日。授賞式は12月16日にフランス北東部のストラスブールで行われる。