2013年7月、満を持して来日したチャリティ・ロックハートさん。彼女が来日した本来の目的は、京都祇園のナイトクラブでシンガーとして歌うことであった。ご存じのように「京都祇園」という地域は、京都市内でも特別な場所(「聖地」とまで言わないが・・・)であり、そこに昔からある伝統的なナイトクラブが雇うシンガーといえば、当代一流である。
彼女と知り合った当初、祇園で歌っていると聞いたので「じゃあ、一度お店に行くよ」と伝えたところ、「来ない方がいい。高いよ」と言われたことを覚えている。ホームページで調べた結果、彼女が正しいことを知った。カツサンドが何と4千円! 確かに分厚いジューシーなカツが挟まれたサンドだったが、これにテーブルチャージなど含めて軽く1万円越え・・・。確かに庶民の店ではない。余談だが、5年後に別のバンドを連れてこのお店に初潜入することができたのだが、その時は「ゲスト」であったため、テーブルチャージはなかったが・・・(笑)。
いずれにせよ、クラブの仕事は土曜の深夜(日曜早朝、ともいう・・・)であったため、彼女は日曜の時間に礼拝へ出席することができたのである。今でも覚えているが、彼女が初めて教会で「アメイジング・グレイス」を歌ったとき、礼拝の雰囲気が一変した。中には涙を流す教会員もおられた。
その1カ月後、私たちは教会内でゴスペルコンサートを行うことにしていた。今回は彼女をフィーチャリングし、その背後でクワイア(聖歌隊)が歌う、というオーソドックスなものである。特に当時教会に来始めていた大学生(軽音楽部所属)たちに演奏を担ってもらうことが、大きな特徴であった。
考えてみると、エンタメの都ラスベガスでショウを行うほどのシンガーが、異国の地元大学生とコラボするのである。どう考えてもアンバランスさはぬぐえない。しかもクワイアは当然教会員を中心とした素人集団である。チャリティさんに申し訳ない、という思いも去来したのは事実である。しかし、そんな気遣いは不要であることがすぐに分かった。
「私はビジネス(祇園のクラブで歌うこと)のために来ています。でもゴスペルだけは仕事では歌いません。これは私の人生そのものなんです。だから教会で歌うとき、ギャラがどれだけ、という話はしません。むしろそういった金銭的な煩わしさを抜きにして、心から主に向かって歌いたいんです」
この言葉掛けに励まされ、コンサートは開催された。予想されていた入場者数を大きく上回る方々が来られ、大いに盛り上がった。そしてその中から教会に興味を持つ方が現れ、実際に数年後には「クリスチャンとして」クワイアで歌う方々が生まれてきたのである。楽器隊は、本場のラスベガスシンガーを前に心持ち緊張気味であったが、彼女から「楽しもう!」という声掛けをしてもらったことで緊張がほぐれ、のびのびと楽しい時間を過ごすことができたようである。
2013年は、ちょうどクライストチャーチのクワイアが9月に来日してくれた最後の年でもある。その2カ月前にこうしてゴスペルの熱気を体感できたことは、その後の活動にとって、大きな刺激となったことは言うまでもない。
その後、チャリティさんは2015、16、18年と継続的に祇園で歌うために来日している。そしてその度ごとに、私たちとゴスペルを歌うことを楽しみ、時には指導し、そして自身の証しを通して人々にキリストの福音の素晴らしさを伝えてくれている。
特に印象的だったのは、私が同志社の授業にお呼びして、そこで歌ってもらったときのことだ。神学部のチャペルをお借りし、知り合いの先輩教授から時間を頂き、そこでゴスペルを歌ってもらったのである。90分、彼女のオンステージであった。驚くべきことは、その後に起こった。授業で来ていたにもかかわらず、多くの方が感動し、涙を流している学生もいる中で、いきなり彼女に近づいてきた女子学生がいた。そして自分の体験を次のように話してくれたのである。
「チャリティさん、あなたが歌ってくれている間中、なぜか涙が止まらず、体の中がとても温かいものに包まれているような、今まで感じたことのない感覚でした。これはどうしてなんでしょう?」
私がそのことをかいつまんで通訳すると、彼女は「それが聖霊の臨在です」と喜びながら語り掛けたのである。その学生は、キリスト教的な背景もなく、全く教会にも行ったことのない方であった。しかし、そんな「キリスト教ビギナー」の方にも彼女の歌は伝わったのである。
2020年春、世界はコロナウイルスの猛威によって日常生活が妨げられ、大事な人生の節目に行うべきイベント(卒業式、入学式、結婚式、甲子園大会、オリンピックなど)が中止になったり延期されたりしている。そんな中にあっても、現在の彼女は歌うことをやめていない。自宅でレコーディングし、しかもそれをユーチューブなどに無料配信している。
今年のイースターに向けて彼女が歌った動画がある。特にこれを日本の皆さんへ届けたい、という願いを持っていたチャリティさんから、動画のアドレスを教えてもらった。特別に彼女の許可を得て、これを掲載させていただく。
ぜひこの機会に、この歌を通して癒やされてもらいたい。(続く!)
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