21万3600人(3日時点)と、新型コロナウイルスの感染者が世界で最も多い米国で、本紙既報(3月31日付)の牧師3人に加え、4日までに牧師や神父ら9人が新たに亡くなった。これで、米国における教会教役者の死者数は少なくとも12人となり、今後も増える可能性がある。
信徒数が2千人を超える、いわゆる「メガチャーチ」と呼ばれる大型教会でも、感染した牧師が亡くなる例があり、感染に気付くのが遅れて亡くなった牧師もいる。一方、10日間の入院後、回復した牧師もおり、事態を深刻に受け止めるよう呼び掛けるとともに、必要な対策を取るよう促している。
親族や家族にも犠牲者
ミシガン州フロントの教会「バウンティフル・ラブ・ミニストリーズ」では3月26日、ロバート・アール・スミス監督(82)とケベリン・ジョーンズ牧師(72)の2人が、新型コロナウイルスの感染症により相次いで亡くなった。同教会は、米最大のペンテコステ派教団「チャーチ・オブ・ゴッド・イン・クライスト」(COGIC)に属する教会。ジョーンズ牧師の妻イオラさんは、地元テレビ(英語)の取材に応じ、45年連れ添った夫を失った悲しみを語りつつも、「私たちは神に希望を置いています。彼とは再び(天国で)会えるでしょう」と語った。
一方、ジョーンズ牧師のいとこで、同じく同州フロントにあるCOGIC所属の教会「ジャクソン記念聖堂」で長老を務めていたフレディー・ブラウン・ジュニアさん(57)も、新型コロナウイルスに感染し、ジョーンズ牧師が亡くなる2日前の24日に亡くなっている。さらに、地元テレビの別の報道(英語)によると、ブラウン・ジュニアさんの息子であるブラウン3世さん(20)も、父の死から5日後の29日に亡くなった。
米カトリック教会最初の司祭犠牲者
3月28日に死去したジョージ・オルティス・ガライ神父(49)は、米国で新型コロナウイルスによって亡くなった最初のカトリック司祭となった。米カトリック系メディア「クラックス」(英語)によると、ガライ神父はニューヨーク・ブルックリンにある聖ブリギッド教会の担当司祭で、ブルックリン教区のメキシコ人移民の担当司祭でもあった。
同教区のニコラス・ディマジオ司教は、「偉大な司祭であり、メキシコ系住民から愛され、ブルックリンとクイーンズの信仰者のための疲れを知らない働き人でした」と述べ、ガライ神父の働きをたたえた。ディマジオ司教によると、ガライ神父には基礎疾患があり、それがウイルス感染による症状の悪化につながったとみられている。
地域に愛された「ヨンカーズの牧師」
ベタニー・アフリカン・メソジスト監督(AME)教会(ニューヨーク州ヨンカーズ)のスコット・イライジャ牧師(67)は、3月29日に亡くなった。地元のデイリー・ニュース紙(英語)によると、イライジャ牧師は3人の子どもの父親でもあり、生計を立てるため、ニューヨーク州都市交通局(MTA)で地下鉄の緊急対応要員として15年にわたり勤務していた。ベタニーAME教会が所属する第1監督教区のグレゴリー・イングラム監督は、イライジャ牧師が地元の人々から「ヨンカーズの牧師」と呼ばれるほど親しまれていたと言い、「彼は素晴らしく、非常に社交的な牧師で、地域社会を守り、常に信徒一人一人を心に掛けていました」と語った。
信徒6千人のメガチャーチで奉仕
毎週信徒約6千人が集うイリノイ州ネイパービルのカルバリー教会では、アンヘル・エスカミーリャ牧師(68)が亡くなった。エスカミーリャ牧師は、3月29日に亡くなるまで40年以上にわたり、牧師、宣教師、教師、副牧師として牧会に携わり、同教会ではスペイン語部門のアシスタントを務めていた。また家族は、孫が10人もいるほど、恵まれていたという。
同教会のマーティー・スローン主任牧師は、教会のフェイスブックに投稿した声明(英語)で、「私たちは、彼が今後も私たちと共にいられるよう、彼の健康的な回復を希望のうちに祈ってきました。私たちの心が天にある希望に向かうとき、私たちの祈りは無駄ではなかったのです」とコメント。「エスカミーリャ牧師は主に対する強い信仰の持ち主であり、御言葉の人であり、偉大な祈りの人でした」と語った。
感染に気付くのが遅れ発症4日後に病院へ
シカゴのオールド・フレンドシップ・ミッショナリー・バプテスト教会を牧会していたケイス・バージェス牧師(47)は、日曜日の礼拝説教で新型コロナウイルスについて語ってから約2週間後の3月30日に亡くなった。地元テレビの報道(英語)によると、バージェス牧師は初め、自身の感染を疑っていなかったが、耐えられないほど容体が悪くなり、発症から4日目で病院に向かった。入院させられると、人工呼吸器を付けての治療が行われたが、入院から1週間もたたないうちに亡くなったという。バージェス牧師には、妻と3人の子どもがおり、兄のカールさんは「症状に注意してください。ただのアレルギーやインフルエンザなどと考えないでください」と注意を呼び掛けた。
詩編愛読した牧師、最期の言葉も詩編から
第二長老教会(テネシー州メンフィス)のティモティー・ラッセル牧師(62)も、3月30日に亡くなった。信徒約3千人が通う同教会で、ラッセル牧師は壮年担当の副牧師を務めていた。地元のコマーシャル・アピール紙(英語)が、同教会のジョージ・ロバートソン主任牧師の話として伝えたところによると、ラッセル牧師は詩編を愛読しており、最期の言葉も、詩編126編5節「涙と共に種を蒔(ま)く人は、喜びの歌と共に刈り入れる」からだったという。
普段は地元の警察官の牧師
フォレスト・エイド・バプテスト教会(ミシシッピ州ナチェズ)のケジュアン・ベイツ牧師(36)は、4月1日に亡くなった。地元テレビの報道(英語)によると、ベイツ牧師は隣接するルイジアナ州ビデリアで警察官としても働いていた。ビデリア警察署長のジョイ・メリル氏は2日、ベイツ牧師の訃報を伝え、次のように語った。
「ケジュアン・ベイツ巡査は神の人であり、私が考えられることは、これも神の計画のうちにあるということです。ケジュアンは今、天で喜びのうちにあることでしょう。私は、これがわれわれ警察官に対する神の計画の一部であり、単なる失敗ではないと信じています。皆さん、これを心に留め、このことから何かを学びましょう」
また別の地元テレビの報道(英語)によると、フォレスト・エイド・バプテスト教会は、ベイツ牧師について、素晴らしい演説家であり、美しい作詩家であり、愛深い夫であり、誇り高き父であったと称賛。そして「しかしすべてにも増して、彼は主を愛し、すべてにおいて主に信頼を置いていました」と追悼の言葉を寄せた。
修道士、教区司祭、神学校教師として長年奉仕
ニューアーク・ポスト紙(英語)によると、ニュージャージ州ニューアーク近郊にあるカトリック系老人ホームに居住していた引退司祭のヒラリー・ジョン・ロジャーズ神父(75)は、4月1日に亡くなった。
ロジャーズ神父が所属していたデラウェア州のウィルミントン教区の発表(英語)によると、ロジャーズ神父はカプチン・フランシスコ修道会の修道士として、デラウェア、ニュージャージー、ニューヨーク、バージニアの各州で計35年間奉仕し、その後ウィルミントン教区所属の司祭となり、マサチューセッツ州にあるカトリック神学校で教鞭を執るなどした。同教区のフランシス・マルーリー主教は「ロジャーズ神父は温かく面倒見のよい司祭でした。司祭また修道士として長年仕え、人々から深く愛されていました」と語った。
牧師夫人も犠牲に
この他3月31日には、ニューホープ・ミッショナリー・バプテスト教会(インディアナ州ホバート)のジェフ・スペンサー牧師の妻であるダーレンさん(59)が、新型コロナウイルスの感染により亡くなった。地元のエバンズビル・クーリエ・アンド・プレス紙(英語)によると、スペンサー牧師がダーレンさんに最後に語った言葉は「心から愛している。どうか良くなって」だった。ダーレンさんはこれに「でも、私の方があなたをもっと愛しているわ」と答えたという。
回復した牧師「真剣に受け止めて」
一方、クロスロード・バプテスト教会(バージニア州ベイリーズ・クロスローズ)のケニー・ボールドウィン牧師は、陽性反応が出てから約2週間の熾烈(しれつ)な闘病を経て、今は回復に向かっている。地元テレビの報道(英語)によると、ボールドウィン牧師は3月15日から頭痛や発熱といった症状が出始めた。最初、病院に行った際には、アレルギーかインフルエンザではないかと言われたが、再度訪れると肺炎と診断された。それでも自宅療養となったが、さらに容体が悪くなったことで入院。その後、「まるで10日間、世界が止まったようでした」と振り返る入院生活を送ることになる。
「(入院中)今までにない方法で神を経験しました。そして、神の約束は真実であること、また神の言葉はなされるということ、神は私たちを絶対に見放したり、忘れたりしないということを思い起こさせてくれました」
ボールドウィン牧師はまた、「真剣に受け止め、安全を守り、賢くあるべき時です」と強調。自宅待機や社会的距離の確保、手洗いなどの徹底を呼び掛けた。クロスロード・バプテスト教会には約400人の信徒が通っているが、感染判明後、全員に2週間の自主隔離を求めたという。ボールドウィン牧師は、イースター(復活祭)までには完全に回復し、オンライン礼拝でメッセージを伝えたいという希望を話しつつ、「毎朝が祝福です。機会を与えてくださり、命を与えてくださったことを神に心から感謝しています」と語った。