新型コロナウイルスの感染により、米国で少なくとも3人の牧師が死去した。いずれも60代で、感染により重度の肺炎となり、入院してから5日から1週間で亡くなった。
ニュービジョン・コミュニティー教会(ルイジアナ州シュリーブポート)のロニー・ハンプトン牧師(64)は、ひどいせきとそれに伴う腹部の痛みから20日午後、救急救命室を訪れた。両肺に肺炎が見られ即隔離され、24日には新型コロナウイルスの検査の結果、陽性と判明。翌25日夕方に亡くなった。
ハンプトン牧師は亡くなる前、2つの動画メッセージをフェイスブックに投稿していた。亡くなる1週間前の動画では、「新型コロナウイルスが、あなたの賛美、あなたの礼拝、あなたの心を奪い去ることがないようにしてください」と述べ、信徒らを励ましていた。また日曜日の22日は、病床で撮影した動画で次のように述べていた。
「『心を騒がせてはならない』と主が話されていたことを、皆さんに知ってほしいです。だから私は、このこと(ウイルス感染)を心配しないようにしています。私はただ祈りに専念し、信仰に立ち続けます。これはきっと、私が少し休めるように神がしてくださった方法なのです」
「私たちはきっと良くなるでしょう。私たちはきっと大丈夫になるでしょう。私はそう信じています。ですので、皆さんには一緒に、主がこれを、われらの主であり救い主であるイエス・キリストについての福音を広める機会として用いてくださるよう祈ってください」
地元テレビ局「KNOE」(英語)によると、ニュービジョン・コミュニティー教会は毎月第3土曜日に、フードバンクと協力して80家族以上に食事を提供する働きを何年も続けており、また地元向けのイベントを毎年開催するなど、地域との関わりを大切にしていたという。
ニューヨーク・ハーレム地区にあるマケドニア・バプテスト教会を長年牧会してきたアイザック・グラハム牧師(66)は、感染が判明し入院してから6日後の22日に亡くなった。病院では完全に隔離され、最後まで人工呼吸器につながれていたという。45年連れ添った妻のシェリルさんへの最後の言葉は「愛している」だった。しかしそれも隔離のため、シェリルさんはグラハム牧師の口から直接聞くことはできず、亡くなった後も遺体安置所にさえ行くことが許されなかったという。
同じハーレム地区にあるネボ山バプテスト教会のジョニー・グリーン牧師は、地元テレビ局「WPIX」(英語)に、グラハム牧師は「完全に回復することを期待していた。彼が亡くなったという知らせは、大きな衝撃です」と語った。一方、グリーン牧師の教会でも、11人の信徒が新型コロナウイルスに感染し、すでに2人が亡くなっているという。
バージニア州グレットナ在住のランドン・スプラドリン牧師(66)は、妻のジーンさんと共にルイジアナ州ニューオーリンズを訪れていたが、急に具合が悪くなり、17日に帰宅を決めた。しかし、自宅までは約1500キロの距離があり、途中容体が悪化し、ノースカロライナ州コンコードの病院に立ち寄った。新型コロナウイルスの検査を受け、翌18日に陽性と判明。両肺が肺炎となったスプラドリン牧師は、人工呼吸装置を付けながら治療が続けられたが、入院から1週間後の25日朝、死去した。ジーンさんは陰性だったものの、35年連れ添った夫の死後さらに1週間、見知らぬ地の病院で隔離が続いている。
スプラドリン牧師には5人の子どもがおり、その1人のジュダさんは、地元のニュースサイト「ゴーダンリバー」(英語)に、「父は、人々を愛し、イエスを愛する、まるで小包に入ったダイナマイトの束のような人でした」と語った。また別の娘のジェシーさんは、父は「現代の使徒パウロ」のようだったと言い、「単なる普通の牧師ではありませんでした」と語った。
スプランドリン牧師は音楽家としても活動しており、2016年には「ブルースの殿堂」から、バージニア州出身の「偉大なブルース歌手」(英語)にも認定されている。ゴーダンリバーによると、その牧会スタイルも伝統にとらわれないものだった。1990年代には、ニューオーリンズで2つのストリップクラブに挟まれた場所で教会を開いたり、テキサス州のバーでバイカー向けの教会を行ったりしたこともあるという。
スプランドリン牧師がバージニア州グレットナで始めた教会に数年前から通い、牧師の家族とも親交のあるパトリック・マクグラスさんは、「彼はどこに行っても、誰に話し掛けても、まるでその人の親しい友人のように振る舞いました」と語った。マクグラスさんの妻カーステン・ジョンさんは、初めて教会に行ったとき、まだ信仰を持っていなかったが、スプランドリン牧師の祈りに感動し、「彼は、イエス様が本当におられるということを私に感じさせてくれた唯一の人です」と話していたという。