世界福音同盟(WEA、英語)は15日、トルコ軍が国境を越えてシリア北東部に侵攻し、クルド人勢力と戦闘を繰り広げていることを受け、「深刻な懸念」を表明した。同地域は、福音派を含めさまざまな教派のキリスト教徒が居住している場所でもあるという。WEAは、弱い立場にある人々がさらに危険にさらされる懸念があるとして、祈りを呼び掛けている。
WEAのエフライム・テンデロ総主事は、悪化する状況に懸念を示した上で、世界の教会に対して、「この地域に住むキリストにある兄弟姉妹のために、またクルド人やアラブ人を含め、あらゆる背景を持つシリア国民のために、祈り、寄り添うことを呼び掛けます」とコメント。さらに、この戦闘に関わるあらゆる勢力に対して、「この無意味な暴力を即刻停止し、罪なき市民を守り、平和を回復するために取り組む」よう求めた。
トルコ軍による越境作戦は、ドナルド・トランプ米大統領がシリア北東部に駐留する米軍の撤退を決めてから数日後の9日に始まった。米国はそれまで、過激派組織「イスラム国」(IS)掃討のため、クルド人勢力を支援し、同地域に米軍を駐留させてきた。そのため今回の撤退は、クルド人勢力を見捨てる形となった。
クルド人勢力がトルコ軍との戦闘に駆り出されていることで、同地域ではISが再び活発化する懸念も出ている。すでに、ISによるとみられる爆弾テロが発生。英インデペンデント(英語)によると、シリア北部のキャンプでは、監視が手薄になったことで、拘束されていたIS戦闘員の妻や子どもら800人近くが逃走した。英BBCによると、クルド人勢力は7カ所の刑務所で、ISに属するとみられる戦闘員1万2千人以上(うち少なくとも4千人が外国籍)を収容している。
米政府は、戦闘が始まる前にはトルコによる作戦を黙認する内容の声明を発表していた。しかし、その後方針を転換。作戦への反対を表明し、14日にはトルコに対する経済制裁も開始した。さらに17日には、マイク・ペンス副大統領とマイク・ポンペオ国務長官がトルコを訪れ、レジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と会談し、解決策が見いだされるまで、経済制裁を継続するという米政府の方針を改めて伝えるという。
一方、米軍の支援を失ったクルド人勢力は、ロシアが支援するシリアのバッシャール・アサド大統領と協力することを選んだ。アサド大統領は早速、これまで支配が及んでいなかったシリア北東部へシリア政府軍を派遣。ロイター通信によると、政府軍はすでに軍事的な要衝である北東部の都市マンビジ周辺の約千平方キロメートルを勢力下に置くなどしている。