トルコ軍が9日、国境を越えてシリア北東部のクルド人支配地域に対し侵攻作戦を開始したことを受け、世界教会協議会(WCC、英語)は11日、同地域に居住する人々に重大な人道的影響があるとして、「深刻な懸念」を表明した。
WCCのオラフ・ウィクセ・トヴェイト総幹事は、「シリア国民はすでに、あまりにも多くの紛争、耐えがたいほどの流血や破壊、そして避難を強いられてきました」と指摘。「世界の諸教会は、それらの終焉(しゅうえん)、シリア国民の苦しみを終わらせることを求めます。戦争はもう十分です。混沌、死、それはもう十分です。今は平和が求められている時、休戦と対話が求められている時です。今は、破壊的な暴力に満ちたこの数年間に虐殺された人々のために、正義を求める時です」と訴えた。
国連(英語)は同日、トルコ軍による侵攻作戦により、すでに10万人の民間人が避難を余儀なくされていると報告した。内戦で疲弊したシリアに、さらに新たな「人道的大惨事」をもたらす可能性があると危機感を募らせている。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)は10日夕までに、戦闘が始まってから2日間で、民間人7人が死亡したことを確認した。死者の中には、女性2人と少年1人が含まれている。
WCCによると、戦闘が行われている地域には、クルド人だけでなくアラブ人も住んでおり、またキリスト教徒やヤジディ教徒、その他これまでの内戦で被害を受けた弱い立場の人々が居住している。「多くの人々は、シリアの他の紛争地域から逃れ、すでに何度も避難を余儀なくされ、比較的安全で安定している北東部に来たのです。しかし今、トルコ軍の作戦により、この避難地さえも戦場となりつつあります」
AFP通信(13日付)によると、戦闘では攻撃能力が勝るトルコ軍側が圧倒的優位に立っており、クルド人を主体とする民兵組織「シリア民主軍」(SDF)側で犠牲者が増え続けている。
トルコ軍が侵攻作戦を開始したのには、米国のドナルド・トランプ大統領の判断が大きく影響したとされている。米軍はこれまで、過激派組織「イスラム国」(IS)の掃討作戦のため、クルド人武装勢力「人民防衛隊」(YGP)を支援するとともに、米軍をシリアに駐留させYGPなどと共にSDFを構成していた。しかし、トランプ氏は昨年12月、ISとの大規模な戦闘が終わったことを理由に、米軍をクルド人支配地域から撤退させることを表明した。
そして今年10月6日、トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領と電話会談を実施。ホワイトハウス報道官は同日、声明(英語)を発表し、「トルコは直ちに、シリア北部に対し長らく計画していた作戦を実行に移す。米軍は同作戦を支持せず、また参加もしない」と明らかにした。さらに米軍は撤退し、同地域で拘束されているISの戦闘員については、トルコが今後責任を持つと発表。トルコ軍の侵攻作戦は、その3日後に始まった。
一方、米軍の撤退が今回の侵攻作戦の事実上の引き金となったとみられるものの、米政府は11日、トルコ側に作戦停止を求めていることを表明。さらに、トルコ軍による作戦が非人道的なものである場合、「重大な制裁」を実施すると明らかにした。
AFP通信によると、トルコ政府は、侵攻作戦の目的は、シリア国内にアラブ系シリア人を主とした親トルコ勢力が管轄する「安全地帯」を形成し、トルコ国内にいるアラブ系シリア人難民360万人の一部を再定住させることだと主張している。他方、エルドアン氏は、欧州諸国に対しては作戦を非難する場合、トルコ国内にいる難民360万人を送り込むなどと、けん制する発言をしている。