日本友和会の第69回全国大会が21~22日、ルーテル市ヶ谷センター(東京都新宿区)で開催された。初日には公開講演会が行われ、元外交官の孫崎享(まごさき・うける)氏が「軍事で安全は確保できない」と題して語った。孫崎氏は、外務省国際情報局長、駐イラン大使、防衛大学教授などを歴任。現在は、東アジア共同体研究所所長を務めている。この日は参加した約60人を前に、弾道ミサイルや核兵器のある現代においては、もはや軍事力では国は守れないと主張。米国の中国や北朝鮮に関する分析を例に取り上げながら、外交によって軍事衝突の可能性を排除していく必要性を訴えた。
孫崎氏は初め、弾道ミサイル防衛について取り上げた。孫崎氏によると、大陸間弾道ミサイルであれば、大型であるため、燃料の用意など発射までにさまざまな準備が必要で、事前に発射を把握しやすい。しかし、短・中距離弾道ミサイルの場合は比較的小型であるため、移動や隠秘がしやすく、発射を事前に知ることは難しいという。さらに、標的が軍事基地などではなく、都市部などであれば正確な着弾地点は分からない。そうすると、軌道計算ができないという。日本の場合、北朝鮮が弾道ミサイルを発射してくるとしても、使われるのは短・中距離弾道ミサイルとなり、都市部が標的とされた場合、迎撃は困難だとする考えを示した。
また、「弾道ミサイルの落下時の速度は秒速2千~3千メートルに上る。それを打ち落とせるわけがない」と言い、他のミサイル迎撃とは違うと説明。「基本的に軍事力で社会は守れないという時代が来ている」と語った。
次に日米安全保障条約について触れた。「多くの人は、安保条約により日本は守られていると思っているが、実は守られていない」と孫崎氏。同条約第5条には、次のように書かれているが、「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」について、米国憲法では交戦権の発動は議会の決定に委ねられていると指摘。日本が武力攻撃を受けたとしても、米議会が拒否すれば「危険に対処する」行動は行われないと語った。
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。(日米安全保障条約第5条)
孫崎氏はまた、1971年に行われた米国のヘンリー・キッシンジャー大統領補佐官(当時)と、中国の周恩来首相(同)の秘密会談について言及。この会談の内容は後に機密解除され、書籍として出版されている。それによるとキッシンジャー氏は周氏に、米国が日本と共に戦うのは、自国の利益に合致した場合のみだと話しているという。
では、軍事で安全を確保できないのであれば、どのようにして安全を確保するのか。孫崎氏は、キッシンジャー氏の『核兵器と外交政策』、また米国防省の「中国の軍事力に関する年次報告書」における、米国の外交戦略を紹介することで、そのヒントを示した。
孫崎氏によると、キッシンジャー氏は同著で、1)中小国が核兵器を保有すれば、それを用いることなく全面降伏することはない、2)しかし、その生存が脅かされるとき以外は核兵器を用いることはない、3)従って、核兵器を持つ中小国に対しては、軍事力でその国を破壊しないと約束することが重要――と主張しているという。「要するに、核兵器を持ったとしても、その国を管理することができると言っている」と孫崎氏。「北朝鮮に対し、国家ないし政権を破壊しないと約束すれば、北朝鮮が核兵器を使うことはない」と述べた。
また、米国防省は2009年の「中国の軍事力に関する年次報告書」で次のように分析しているという。
1)中国の指導者の戦略は根本的には共産党政権の永続化、2)そのためには国民の支持が不可欠、3)それには共産党賛美のイデオロギー政策や、日米を敵対視するなどの対外危機をあおる政策では不可能、4)経済を発展させ国民の生活向上を図るしかない、5)必然的に海外市場や資源・技術の確保をしなければならず、平和的な国際環境を臨むはず。
これらを紹介した上で孫崎氏は、日本の場合、集団的自衛権などがなければ、日本を攻撃してくる可能性があるのは、韓国、北朝鮮、中国、ロシアの4カ国に限られると言い、「この4つの国と仲良くしていれば、攻撃されることはない」と述べた。そして「戦争しないのは、戦争しない理由がある。今これらの国が日本を攻めてこないのは、攻めない方が利益があるから」と言い、周辺国と互恵的関係を築くことで戦争を回避する道を示した。
最後には、過去何世紀にもわたって戦争をしてきたのにもかかわらず、現在は友好関係を維持しているドイツとフランスの取り組みを紹介した。孫崎氏によると、第2次世界大戦以降に起こった戦争はいずれも、1)領土問題に起因する戦争、2)内戦、3)米国が民主化を掲げて起こす戦争――の3タイプに分類できるという。このうちドイツとフランスの間には、今でも戦争に発展し得る領土問題がまったく存在しないわけではない。
現在フランス領となっているアルザスロレーヌ地方は、同国北部にあるドイツ国境に接する地域。九州の半分弱ほどの大きさで、鉄鉱石や石炭などの産出地であるため、しばしば両国間の係争地となってきた。人口の約7割はドイツ語系で、孫崎氏は、ドイツが領有権を主張することもできそうだと話す。しかしドイツはそれをせず、同地方には現在、欧州連合(EU)の多くの機関があり、また紛争の要因となりかねない鉄鉱石や石炭は、EUの下で共同管理している。「今は協力関係があまりにも深化しているから、誰も両国が戦争するとは思わない」と言う。
孫崎氏はさらに、このような方法による紛争排除が、東南アジア諸国連合(ASEAN)でも実現できていると指摘。東アジアにおいても、EUやASEANのような協力組織を作ることができるのではないかと投げ掛けた。
講演後の質疑応答では、最近の日韓関係をめぐる情勢や、竹島、北方領土の問題、また米国の対イラン政策などに関する質問も出され、孫崎氏は時間が許す限り質問に答え、自身の見解を述べた。
日本友和会は、キリストの愛と赦(ゆる)しに基づき、武力ではなく、非暴力による和解実現を目指して1914年に設立された平和団体「国際友和会」の日本支部。国際友和会はオランダに本部があり、世界には日本を含め40余りの支部がある。会員からは、マーティン・ルーサー・キング牧師らノーベル平和賞受賞者を6人も輩出している。