今回の話題は大変深刻な問題であり、教会での牧会経験のない私が安易にコメントしにくいことだが、かつて長年勤務した会社生活の中でも優秀な若者がバーンアウトすることがよく見られたので、その経験から述べてみたい。
私のかつての職場は自動車会社の技術開発を担っていたが、期限内に技術課題に応えるため、忙しい日々を送っていた。さまざまな業務に関わったが、後半の10年程度は若い人たちを育成する立場にもあった。
その中で、数人の若者たちが心を病んでいくのを目の当たりにした。私自身は彼らに寄り添うことを重要な業務と考えていたが、彼らと過ごす時間の中で多くのことを学んだように思う。
その後、私は企業を定年退職し、比較的若い献身者の集う全寮制の神学校に入学した。そこに集う若者たちは、信仰の純粋さと宣教への志を備えた将来有望な献身者ばかりだった。
以前の会社の人材とは異なる個性に期待することもあったが、彼らと3年間過ごす中、その後の彼らの歩みに多少不安を感じるようになっていた。実際に、卒業から5年ほどが経過するが、彼らの中から宣教の現場を離れる者が後を絶たない。働き手の少ない宣教現場にとっては深刻な問題である。
優秀で真面目な若者はバーンアウトしやすい
会社時代、私は量産開発部門の上流に当たる研究所に勤務していたが、私たちが素性の良くない新技術を提案したため、多くの人たちに大変な苦労を掛けたことがあった。量産化の日程が迫る中、真面目に対応しようとする優秀な本社の技術者たちがバーンアウトしていったことは、大変つらい出来事だった。
私は頻繁に本社に出張し、夜遅くまで彼らと話し、タクシーと最終の新幹線で帰宅したのを覚えているが、改良提案のできない私のできる仕事は、主に彼らの苦労話に耳を傾けることだけだった。
果たして、その時間が彼らにとって良い時間だったか不明だが、彼らが、素性の悪い技術を送り込んだ私に心を許し、苦労話をしてくれたのは、私が彼らの部署とは異なる研究所に所属していたからである。同じ責任を負っている部署内では話せないこともたくさんある。
直属の上司の言動が直接的な原因になる
人は、どんなに忙しい業務に就いていても、業務内容だけでバーンアウトすることはほとんどない。特に志の高い優秀な人は、相当に忙しい困難な業務にも耐えることができる。
しかし、そのような人材でも、職場の人間関係が引き金になってバーンアウトすることがある。中でも、直接業務を指示する上司に当たる人の言動は大きな影響を与える。
特に、仕事熱心で優秀な上司ほど、部下に大きなプレッシャーを与えることがある。具体的な指示がなくても、その存在だけで大きな圧力になってしまう。職場の中で逃げ場がなくなるのは、共同体の中で生きる日本人の特徴なのかもしれない。
私が勤務する会社は大企業だったので、配置転換や私のような他部署や外部機関からの助けが期待できたが、小規模な職場環境では、逃げ場を見いだすことは難しく、若い優秀な人材が心を病んでいくことになりやすい。
プロテスタント教会の閉鎖的空間
日本のプロテスタント教会は、多くの国から来日した宣教師たちが自らの信仰のルーツに基づいて作った経緯があり、それぞれに特徴のある小さな共同体が年月とともに閉鎖的な共同体を形成している。教会の「うち」と「そと」を区別し、教会員制度を重要視するなどの特徴は、日本の教会の特徴でもある。
閉鎖的という言葉はあまり良い表現ではないが、日本の共同体の良さでもあり、その中で生まれる信頼関係は、日本人にとっては大変重要な心の支えになる。良い人間関係に恵まれた閉鎖的な日本の共同体は、家族的で大変居心地が良い。
しかし、その共同体が閉鎖的な故に、人間関係が崩れると大きな問題が生じる。一般の信徒であれば、教会と少し距離を取り、場合によっては転会することもあり得る。主任牧師であれば、教会の働きの仕組みを自ら変えることもできる。
問題は、将来の後継者として期待され、遣わされた献身者(伝道者)の場合、あまり選択肢がないのである。大抵の場合は、自らを追い込み、いわゆるバーンアウトに陥りやすいと考えられる。
教会共同体を離れてホッとできる祈りの場がほしい
これに対する抜本的な対策案があるわけではない。しかし、志の高い優秀な献身者がその緊張から解放され、神様の前でホッとできる空間、祈りの場がぜひとも必要と考えている。
それぞれの苦労話を分かち合い、祈り会い、神様から励ましとビジョンを頂き、再び宣教の地に戻っていくエネルギーを得る場があってほしい。
そこは、人間関係のしがらみのない、賛美と祈りが満ちる場であり、地域教会のような共同体ではない。少しの間の隠れ場のような所になるといい。
そんな空間が日本宣教を担う若い献身者には必要ではないだろうか? いつかそのような場を、多くの将来有望な献身者たちに提供したいと考えている。
■ 賛美と祈りの集い(次回、6月3日開催を計画中)
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