日本社会には、祈りを中心とするたくさんの儀礼の習慣がある。第3回「冠婚葬祭の中で祈る日本人」で述べた通り、古くから受け継がれる祈りの場に、信仰をもって寄り添うことは、日本宣教の拡大にとって大切な要素になる。
さまざまなアプローチがあるが、まず全国に普及しているキリスト教結婚式や、今後増加が見込まれるキリスト教葬儀を通し、教会の牧師や音楽家たちが、多くの日本人に寄り添えるようになってほしい。今回は、キリスト教結婚式について、課題と展望を述べる。
キリスト教結婚式の課題
日本では、キリスト教徒が1パーセントしかいないにもかかわらず、キリスト教結婚式の比率は、全体の60パーセント近くを維持している。驚くべき数字ともいえる。信仰を求めて選ばれているわけではないが、聖書の言葉を通して祝福する機会が与えられていることは貴重なことだ。
確かに、結婚式場で行われる結婚式にも、教会の牧師や音楽家が出向き、多くの新郎新婦に寄り添う道が開かれてきた。結婚式を通して信仰に導かれた者も多いだろう。しかし、最近その事情が少し変化しているようだ。
かつて、キリスト教結婚式の割合が拡大していったころ、式を主導するのは牧師だった。しかし、今や、結婚式場の要求に応じた人材派遣業者が、多様化している結婚式を支えるようになってきた。
そして、経験豊富な多くの実務者が、人材派遣業のスタッフになっているように、司式に対応する牧師や音楽家たちの多くも、派遣業者に所属するようになった。
日本社会において、派遣社員の抱える課題が広く知られるようになったが、派遣業者に所属する牧師や音楽家も、同じ課題を背負うようになった。雇用が安定しない、給与が少ない、といったことだけでなく、福音宣教の働きにも大きな制限が与えられてきた。
通常、牧師は新郎新婦を祝福し、それを契機に彼らの結婚生活に寄り添いたいと願っている。しかし、顧客からのクレームを恐れる結婚式場は、結婚式以外の場において、新郎新婦との接点を持つことに抵抗を示すようになったのだ。派遣業者は、このような結婚式場の意向に沿って、牧師や音楽家に制限を加えている。
キリスト教信仰に根差した派遣業者もわずかに存在するが、派遣業である限りは、結婚式場の意向が優先されるため、十分な宣教効果を上げることが難しい状況になっている。
本物を求める市場の声
一方、結婚式スタイルの多様化が進み、自分たちらしい結婚式を挙げたいと願う顧客が目立ってきた。そして、その中に本物の教会で牧師に司式してもらうことを優先して選びたいという声が聞こえるようになった。
生き残りをかける結婚式場は、そのような声にも敏感に反応し、今まで求められてきたルックス重視の外国人牧師(牧師でない外国人も多くいるようだ)ではなく、分かりやすく聖書から、祝福の言葉を語ってくれる日本人牧師を求めるようになってきた。また、結婚式会場についても、実際に礼拝が行われる教会堂を準備し、積極的に広報するところが現れた。
今後の展望
華美なセレモニーより、結婚の約束を確かなものとし、祝福を祈る時間を大切にしたいと願う日本人が増えてきているのは、ありがたいことだ。彼らの思いに寄り添い、宣教を拡大するため下記のような提案をしたい。
1)顧客から相談、依頼を直接頂く仕組みを作る
宣教は、人々に寄り添うことから拡大する。寄り添うためには、教会や牧師が顧客の相談や依頼を直接受け、最善の結婚式を提案できる場にいなければならない。結婚式場や派遣業者から依頼される現在の体制を一新し、新しい仕組みを作りたいものだ。
2)知見を集約し、冠婚葬祭事業者に具体的な指示をする
キリスト教結婚式を数多く経験してきた教会、牧師の知見、さらに結婚式場や派遣業者の情報を集約し、顧客の依頼に対し、最善の提案ができるような体制を整えたい。そして、顧客の要望に沿って、多くの冠婚葬祭事業者に具体的な指示が出せるようになりたいものである。
3)牧師、音楽家の意識、資質を向上させる
牧師や音楽家は、結婚式における重要なサービスを担うプロ集団として意識を持ち、常に資質を高めることに努めてもらいたい。顧客に信頼され、福音を受け取っていただくための最高のサービスが提供できるよう、当社としてもさまざまなサポートの仕組みを整えたいと考えている。
当社の結婚式事業は、いまだ模索段階にあるが、志のある多くの牧師や音楽家の皆さんに支えられ、将来を展望させていただいている。今年は、ぜひとも具体的な一歩を踏み出したいものである。
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