日本社会には、祈りを中心とするたくさんの儀礼の習慣がある。第3回「冠婚葬祭の中で祈る日本人」で述べた通り、古くから受け継がれる祈りの場に、信仰をもって寄り添うことは、日本宣教の拡大にとって大切な要素になる。
さまざまなアプローチがあるが、まず全国に普及しているキリスト教結婚式や、今後増加が見込まれるキリスト教葬儀を通し、教会の牧師や音楽家たちが、多くの日本人に寄り添えるようになってほしい。今回は、キリスト教葬儀について、課題と展望を述べる。
キリスト教葬儀の現状と課題
日本では、キリスト教徒が1%しかいないにもかかわらず、キリスト教葬儀の比率は、全体の2%近くになっている。その割合は都心に近いほど高く、東京都では8%とする調査結果もある。
仏教葬儀文化が衰退する中、教会や牧師につてはないものの、教育、福祉、また結婚式を通し、キリスト教に触れている人々がキリスト教葬儀を選択するようになったと考えられる。
もちろん、葬儀は結婚式のような晴れやかな場ではなく、人々の憧れになって急速に広がることはない。普及の速度が結婚式より遅いのはやむを得ないだろう。
しかし、天国への希望をつなぐ明るいキリスト教葬儀は、読経の流れる仏教葬儀に比べ、現代社会と調和し良い印象を与える。今後、多くの方に受け入れられ、かなりの割合まで増加していくことになるだろう。ただ、その拡大の速度をとどめている課題が幾つかある。それらを解析しながら対応策を考えたい。
課題1)葬儀は先祖から受け継がれる宗教で執り行うものとする一般通念がある。
各家庭には、江戸時代の檀家制度から受け継がれた宗教(仏教)がいまだに存在する。それらの宗教を選ばず、キリスト教葬儀を選択するためには、親族を納得させる理由とタイミングが必要になる。
課題2)地域教会は通常、教会外の人々にキリスト教葬儀を提供する習慣がない。
教会を離れた信者や、信仰を持っていない教会外の人たちがキリスト教葬儀を求める際、牧師、葬儀場、葬儀社など限られた時間の中で、手際よく手配しなければならない。大切な親族を失った喪失感の中、扉の開いていないキリスト教葬儀を準備する作業はかなりハードルの高いものになる。
葬儀文化が大きく変化する兆候
このような大きな課題を抱えてはいるが、ここ数年、仏教葬儀文化を支えてきた墓事情が大きな変化を遂げていることは注目に値する。かつて日本が高度成長時代を迎えていたころ、それぞれの家庭では、受け継がれた宗教に基づき、家族、親族の墓を建立した。墓地業者や墓石業者は、大変忙しい時期を過ごしていた。
ところがここ数年、家族、親族の墓は、建立されるよりも墓じまいされる数の方が多くなった。墓苑に行っても、墓石が撤去され、空き地になっている所が目立つようになってきている。
核家族化、高齢化は急速に進むため、今後も家族・親族の墓は減り続け、共同の墓が急速に増えてくるだろう。墓石業者はさまざまな共同墓地を造りたいだろうが、宗教お断りの日本では、共同墓地に特定の宗教色を設けにくい事情がある。
おそらく、「家」で受け継がれてきた宗教も、今後姿を消していくことになるだろう。そうなると、葬儀においても多くの人が自分たちらしい葬儀の形を求めるようになる。すでにその兆しは現れ始めている。
キリスト教葬儀拡大への展望
このように、日本の家庭には、キリスト教葬儀を選択できる機会が増えてくるだろう。キリスト教葬儀の普及を阻む課題に対し、細かな対応を取りながら、日本の地域教会が、葬儀を通して多くの日本人に寄り添えるようサポートしたいものである。
私たちが、教派を超えた宣教団体ではなく株式会社であるのは、一般の家庭からの相談窓口として大変都合がいい。深刻な相談でも、サービス業への問い合わせなら少しは気楽になるだろう。私たちは、丁寧な対応を心掛け、多くの教会と連携して日本宣教拡大の窓口になりたいと考えている。
もちろん、葬儀の依頼を受けた際には、地域教会が依頼者家族に寄り添えるように、万全の態勢を整えたい。そのためには、多くの連携者、連携業者が必要になる。地域拠点の充実は必須である。
また、私たちは、地域教会を訪問し、終活セミナーや模擬葬儀の実演を積極的に進めている。地域教会の皆さんに趣旨を理解していただき、具体的な協力をさせていただき、教会近隣の皆さんに、人生のエンディングを通して福音をお伝えしたいと心より願っている。
それぞれの対応策は、一朝一夕には進まない。しかし、時代は確実に進み、多くの人々がキリスト教葬儀を通し福音に触れる時代が訪れようとしている。私たちは、手をこまぬいていてはならない。主の働きをとどめることのないよう祈りつつ日々の働きをまっとうしたい。
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