グローバル化と現場対応
数年前まで、グローバル化の弊害を唱える人はそれほどいなかった。しかし昨今、大手IT企業の影響力が際立つにつれ、それぞれの地域の主体性を生かした現場の働きが難しくなってきた。現代社会のグローバル化は避けて通れないが、地域の働きを生かす現場重視の仕組みになってほしいものだ。
かつて、私は自動車会社の研究開発者だった。日々の仕事で常に意識していたことは、できることを積み上げるのではなく、将来、世界標準になるグローバル技術を構築することだった。ある特定の地域や車種に限った現場対応の業務は、私の仕事ではなかった。
そのような職場で30年以上働いた結果、確かに、手掛けた技術が世界標準になった。グローバル技術が社会を支えるのを目の当たりにした。しかし、その技術を世界中のさまざまな環境に適用するため、実に多くの人々の知恵が、それぞれの現場で集められてきた。彼らの存在がなければ、私の仕事は到底完結しなかった。
当然のことだが、グローバル化と現場対応は、車の両輪のようなものだ。グローバル化は、社会を変革する大きな可能性を生むが、現場で働く人々との連携によって、初めて良い成果を生み出すことになる。
現場対応中心の福音宣教
一方、キリスト教会の宣教活動は、主に現場の働きによって進められてきた。もちろん教団や、教派を超えた宣教団体もあり、グローバルな働きが無いわけではない。しかし、一般社会のグローバル化の速度に比べ、極めて遅い変化と言わざるを得ない。
宣教は人々に寄り添うことで拡大する。現場の働きが無ければ実を結ぶことはあり得ない。しかし、一人の人に寄り添うとき、その人を取り巻く社会の仕組みを無視することはできない。社会のグローバル化が急速に進む中、福音宣教のグローバル化の在り方を見つめ直す必要がある。
「話し相手・付き添いサービス」の展開
宣教は、地域の現場で、未信者に寄り添うことによって拡大する。当社では、地域教会が高齢者に寄り添えるよう、高齢者への「話し相手・付き添いサービス」を展開するビジョンを描いてきた。
この働きは、介護保険外サービスとして注目される分野にあるが、当社の場合、主に傾聴するだけのサービスなので、有料サービスとして定着するには、各地域で信頼される働きになる必要がある。
現状ではHP閲覧件数が多い割に、依頼や問い合わせは少ない。しかし、サービス内容が「寄り添う」ことに限っているため、いったん寄り添わせていただくと、定期的な訪問が何年も続き、信頼関係は徐々に増してくる。依頼者の状況に合わせて、寄り添い方は常に変化するので、地域の連携が必要になる。
依頼者は、キリスト教会を中心とする働きであることを承知しているので、賛美や祈りをとがめられることはない。信仰に導かれる確率はかなり高くなる。
エンディングに寄り添うグローバルな働きへ
さらに、依頼者が召されることになっても、エンディングに関わり、看取り、葬儀、納骨式、記念会、各種祈りの場など、家族とのつながりは長期にわたって継続される。気付けば、クリスチャンファミリーが生まれることにもなる。
このような経験を積む中、私たちは、日本宣教を拡大するグローバルな働きの仕組みを見いだしていった。以下がその内容である。
まず、全国の未信者から「葬儀相談」「話し相手」「付き添い」など、サービス業としての依頼を幅広く受ける。次に、全国の連携するクリスチャンが依頼者を訪問する。訪問者は、依頼者とその家族の様子をヒアリングし、関係者と情報共有する。共有された情報に沿って、地域教会と連携して依頼者とその家族に寄り添う、といった内容である。
この仕組みを用いて、未信者から直接依頼され、福音を届けるサービス業がグローバルに展開できる可能性が出てきた。外見は企業の働きであり、依頼者は料金を払ってサービスを受ける。関係するすべての業者や団体とは必要な契約を結び、協力関係にある。一般に受け入れられる業務展開手法である。当然のことだが、必要に応じ、料金を頂かない無償の奉仕もためらわずに実施する。
やがて、この働きは拡大し、日本全体を潤すグローバルな働きになることを期待している。もちろん、地域教会が近隣の未信者に寄り添い、福音を届ける現場の働きが最も重要になる。私たちは、地域教会の働きをサポートする役割をしっかりと担っていきたい。
◇