イスラム教の預言者ムハンマドを冒とくしたとして死刑を言い渡され、8年収監された末、昨年10月に逆転無罪となったキリスト教徒のパキスタン人女性アーシア・ビビさん(54)をめぐり、同国最高裁は29日、イスラム急進派が判決を不服として申し立てていた再審請求の棄却を決定した。これによりビビさんの無罪を覆す法的手段はなくなり、出国制限も解かれる見込みで、ビビさんの国外への亡命実現に向けて事態が進展しつつある。
5人の子を持つビビさんは2009年、同じ農場で働いていたイスラム教徒の女性たちから、キリスト教徒であることを理由に嫌がらせを受けた。その際発言した言葉がムハンマドを冒とくするとして逮捕され、翌10年には死刑を言い渡された。しかしビビさんは無罪を主張し続け、8年余りの月日を経て、昨年10月に最高裁で無罪となった。
米CNN(英語)によると、アシフ・サイード・カーン・コーサ裁判長は「当法廷は再審理を行いません。(再審請求側の)弁護士たちは無罪判決に対して一つの誤りも指摘できませんでした」とコメント。また「証人らの証言の信ぴょう性に目を向ける必要があります。偽の証言では絞首刑を執行できません」と述べた。
国際人権団体「アムネスティー・インターナショナル」の南アジア担当者であるリメル・モヒディン氏は同日、声明を発表。「(この決定によりビビさんは)自由を手に入れて、苦しみを終わらせなければなりません」と語った。
「犯しもしなかった罪で(逮捕から数えて)9年間も収監されれば、今さら無罪になってもそれを正義と見なすことは困難です。ビビさんは自由になり、家族と再会し、自らの選ぶ国で安全に暮らすべきです」
「ビビさんの権利執行を遅らせたこの失態は、冒とく法などの宗教的少数派を差別し、命を危険にさらす法律をパキスタン政府が可及的速やかに廃止すべき必要性があることを強く物語っています」
昨年10月の判決で最高裁は、「検察は本件に関して、十分な容疑があると証明することを全面的に失敗した」と結論付け、ビビさんに無罪を言い渡した。しかしこの判決後、イスラム教国のパキスタンでは、急進派が大々的な抗議活動を始め、ビビさんは釈放後も命の危険にさらされた。無罪判決とは裏腹に、亡命嘆願書の提出後も国を離れることは許されず、現在も政府の保護下で生活することを余儀なくされている。
ビビさんと同じ村に住むイスラム聖職者のカリ・ムハンマド・サラム氏は昨年、無罪判決後に声明を発表し、ビビさんは「法律に従って死刑判決に値する」と指摘。「この問題で誰かを赦(ゆる)してしまうなら、冒とく罪とその赦免が日常的になるでしょう」と訴えていた。
「彼女がそのような言葉を発せず、以前と同じように生活していれば、平穏無事だったはずです。私たちはそれを望んでいました。しかし誰かがこのようなことを語った場合、預言者(ムハンマド)の尊厳に関して妥協があってはなりません。イスラム教徒である私たちにとって、今は試練の時だと思います。私たちはこのような時に備えなければなりません」
ビビさんの亡命をめぐっては、カナダなどの複数の国が受け入れを表明している。