欧州連合(EU)からの離脱をめぐる問題で英国全体が揺れる中、同国の教会指導者が望むものは「和解と希望」であって「中傷合戦」ではない。
テリーザ・メイ英首相のEU離脱案の採決が15日、英下院で行われ、賛成202票、反対432票という大差で否決された。このメイ氏の「歴史的大敗」を受け、スコットランド国教会は同日夜、声明(英語)を発表し、英政府は離脱前にEUとの間で「包括協定」を締結する必要があると訴えた。
スコットランド国教会の「教会と社会評議会」の議長を務めるリチャード・フレイザー牧師は採決の結果を受け、包括協定以外のものは「無謀」であり、「英国がその公益のために依存する最も近い隣人(EU諸国)との信頼関係を失う」ことにつながると述べた。
メイ氏は2年にわたりEUと集中協議を続けてきたが、離脱案は230票差という過去100年余りで最大の敗北となる圧倒的な拒絶を受けた。
一方、EU側は「合意なき離脱」に備え、本腰で準備を進めているようだ。
欧州委員会のジャンクロード・ユンカー委員長は採決後の声明(英語)で、「英国がEU離脱という無謀なリスクを犯したために、今回の採決を招いた」と述べた。
「われわれはそれ(合意なき離脱)を望んでいるわけではないが、欧州委員会はEUの準備を十分で確実なものにするために、緊急時の対応作業を続けることになるだろう」
フレーザー氏は現状のいかんを問わず、和解に向けた「異なるアプローチ」が必要だとし、「騒ぎ立てる」のではなく耳を傾けることの必要性を指摘した。
「分裂した社会の和解には、異なるアプローチが必要です。その中でこそ、EUとの今後の関係の模索に向けて、あえて時間をかけた、より慎重なアプローチを取ることができます」
「われわれに必要なのは互いを尊重し合う対話です。その対話の土台は騒ぎ立てることではなく、注意深く耳を傾けることにあります」
「英国の議会と政府はEUとの今後の関係について、国内のあらゆる地域における合意に向けて積極的に取り組まなければなりません。それを実現する時間を捻出するには、あらゆるメカニズムを駆使することが必要です」
「ここ数週間の行動の取り方次第では、今後数年のみならず、幾次世代にもわたる影響を与えることになるでしょう」
EU離脱をめぐる「中傷合戦」の終結については、英国国教会リーズ教区のニック・べインズ主教も採決の数日前、同様の対応の必要性を訴えていた。
べインズ氏はブログ(英語)の中で、EU離脱をめぐって分裂や不安、恐れが「危険な状況」を生み出すとき、特にクリスチャンは希望のメッセージを提示しなければならないと述べた。
べインズ氏は特にポピュリズムの台頭を懸念し、愛国心と国粋主義を混同すべきではないと警鐘を鳴らす。
また自身が発するメッセージは、一般市民だけのためではなく、英国の指導者に対するものでもあると指摘。国の指導者らは政治的ビジョンや実体を「直観的で感情的な」スローガンとすり替えようとしていたと述べた。
「私はこの国の議会に繰り返し訴えてきました。議会は語る言葉に注意を払い、国民の日常生活を取り戻すために何かをすべきだと」
「誰もが(一度は)同じ意見を共有します。しかし多くの人はすぐにカテゴリー化や中傷合戦に戻ってしまうのです」
「しかし、クリスチャンの行動は恐怖に動機付けられるものではありません。私たちは希望に胸を膨らませるのです。希望は『復活』という未来の出来事からやって来ます。その希望をファンタジーと混同してはいけません」
EU離脱は3月29日に期日を迎える。メイ政権は、EU離脱の代替案を21日までに議会に示し、29日は採決すると発表している。