ノーベル平和賞の授賞式が10日、ノルウェーの首都オスロで行われ、性暴力被害に遭った女性や子どもたちの治療を長年にわたって行ってきたコンゴ民主共和国(旧ザイール)の婦人科医デニ・ムクウェゲ氏と、過激派組織「イスラム国」(IS)から性暴力や拷問を受けた被害者であると同時に活動家でもあるナディア・ムラド氏の2人が受賞した。
牧師の息子であるムクウェゲ氏はペンテコステ派のキリスト教徒で、ムラド氏はイラクの少数派であるヤジディ教徒。ムクウェゲ氏は授賞式のスピーチ(英語)で、コンゴ東部に設立したパンジー病院で経験してきた数々の悲惨な事例を分かち合い、女性に対する暴力を阻止するための行動を世界に訴えた。
性暴力の被害女性に再建手術を施す「ドクター・ミラクル」として知られているムクウェゲ氏は、フランスで医学を学んだ後、1999年に同国東部ブカブにパンジー病院を設立した。そこでムクウェゲ氏が最初に手術を施したのは、性的暴行を受けた上、さらに性器を銃で撃たれた女性だった。さらに別の日には、生後18カ月の女児が病院に運び込まれた。
「その子は出血がひどい状態で、手術室に担ぎ込まれてきました。私が到着すると、看護師たちは全員泣いていました。女児のぼうこうと性器、直腸は、成人による性交で深刻な傷を負っていたのです。
私たちは静かに祈りました。『わが主よ、目の当たりにしていることが現実ではないと言ってください。これは悪夢だと言ってください。私たちが目を開けるとき、すべての問題は消え去っていると言ってください』。しかし、それは悪夢ではなく現実でした。昔も今も、それがコンゴの実情です」
パンジー病院は20年近くにわたり、多いときで年間3500人余り、これまでに計4万人近くの女性たちを治療してきた。
「北キブ州のベニやカサイ州に見られる強制性交や虐殺が、南キブ州のカブミュでも起きました。同様のことが、今もコンゴのいろいろな場所で起きています。これは法の支配や伝統的価値観が崩壊し、無秩序が横行しているためです。特に権力者にとっては無法状態です。
レイプや虐殺、拷問、広範囲にわたる政情不安、また甚だしい教育の欠如の故に、これまでにない暴力の連鎖が生じています。歪んだ組織的カオスのために数十万人の女性がレイプされ、400万人余りの国民が住居を追われ、600万の人命が失われました。想像してみてください。デンマークの総人口に相当する人々が殺害されたのです」
コンゴ人の代表として平和賞を受けたと話すムクウェゲ氏は、「人類の恥となるこの苦しみを終わらせるために」力を貸してほしいと、授賞式を見守る世界の指導者に訴えた。
「行動を取ること。それは(意思による)選択です。それは私たちが女性に対する暴力を阻止するかどうかの選択であり、肯定的な男らしさを作り出し、平和の時代にも戦争の時代にも、男女の平等を促進するかどうかの選択なのです」
「なすべき戦いがあるとすれば、それは無関心に対する戦いです。無関心が私たちの社会を食い尽くそうとしているからです」
一方、ムラド氏は授賞式のスピーチ(英語)でISの脅威について語った。イラクやシリアでは、自身をはじめとするヤジディ教徒やキリスト教徒、他の少数派がISに苦しめられてきたとして、次のように語った。
「心の底から皆さんに申し上げたいことがあります。この虐殺が私のこれまでの人生や、ヤジディ教徒すべての人生を大きく変えたということ、またISがイラクの構成民族の一つを根だやしにしようとしたということです。彼らは女性を捕え、男性を殺し、ヤジディ教の巡礼地や礼拝堂を破壊しました。
今日は私にとって特別な日です。今日は善が悪に打ち勝った日です。人類がテロを打ち負かした日です。迫害に苦しむ子どもや女性たちが、犯罪の加害者たちに打ち勝った日です。この日が新たな時代の幕開けとなることを願います。平和が優先され、女性や子ども、少数派、特に性暴力の被害者を迫害から守るため、世界の人々がこぞって新たなロードマップの策定に動き始めることを願っています」