モンゴルの「マンホールチルドレン」の話を聞いたことがあるだろうか。モンゴルでは、ホームレスの子どもたちを「マンホールチルドレン」と呼んでいる。冬に零下30度まで気温が下がるモンゴルでは、家のない子どもたちは路上で生活ができず、マンホールの中の温水パイプの上で暖を取って命をつないでいる。しかしマンホールの中は光も入らず、衛生状態も悪いため、病気にかかるなどして命の危険にさらされることもある。
今から20年も前になる1998年、NHKが3人のマンホールチルドレンを追うドキュメンタリー番組を放送した。まだ10歳そこそこの3人の子どもたちが、マンホールの中で寄り添い、助け合って生きている姿が映し出された。大抵の人は、このような映像を見て、かわいそうに思いながらも、遠い異国の子どもたちに自分は何もすることができないと「同情」だけして、記憶の奥にしまい込んでしまうかもしれない。しかし、同情するだけでなく、実際に行動に移した日本人女性がいた。トーチトリニティ神学大学院(韓国)の異文化学部で教授を務める高見澤栄子さんだ。
20年前にNHKの番組が放送された当時、神学生だった高見澤さんは、自分の生活だけで精いっぱいの状況で、祈るしかできなかったという。しかし昨年、3人の子どもたちの10年後を伝える別の番組(2008年放送)を、インターネット上で見る機会があった。3人が依然として厳しい状況にあることを知り、すぐにでも行動を起こすべきだと心に迫りを感じた。そして祈る中、知り合いのモンゴル人牧師を通して、3人のうち1人が洗礼を受け、クリスチャンになっていることを知った。「感動すると同時に、神様が『今、何かを始めよ』と言われているような促しを感じました」という。今年2月、モンゴルを訪問。3人のうち2人との対面を果たした。しかし悲しいことに、残りの1人はすでに他界していたという。
「地上に生まれてくる子どもたちは皆、創り主から与えられた命と、賜物と才能を持って生まれてきている。マンホールに住む一人一人にも、神様が立ててくださった将来と希望のある計画があるに違いない。本来の神様の似姿を取り戻して、一人一人に与えられた命と賜物と才能を用いて社会に貢献する、生きがいと喜びのある人生を生きてほしい」
高見澤さんはそう願い、3月にマンホールチルドレンのためにホームを提供する「モンゴルキッズの家」をスタートさせた。現在、ホーム設置のための献金を募っているほか、マンホールチルドレンのために千人で祈る「Dream Together 1000」への参加などを呼び掛けている。「モンゴルキッズの家」の活動について、米ニューヨークで地域コーディネーターを務める大清水良裕さんに話を聞いた。
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記者:大清水さんが、夫妻でこの活動に加わるようになったきっかけを教えてください。
大清水:この活動について、創立者である高見澤先生から直接お話を伺いました。想像を絶するような逆境で暮らすマンホールチルドレンたちは、「なぜ、僕・私を生んだの? お母さん」と叫んでいるそうです。そんな子どもたちに、神様から愛されていることを伝え、新しい人生を与える具体的な活動をしようとするこの働きに共感しました。また、私たちが通っているニューヨークのタイムズスクエア教会の創立者であるデイビッド・ウィルカーソン牧師の活動にも重なりました。ウィルカーソン牧師は、ニューヨークのブルックリンに同じように「回復の家」を立て、ドラッグやけんかに明け暮れる多くの若者たちに、神が彼らを愛していることを伝え、救いに導いてきました。
記者:どうしてマンホールチルドレンのような子どもたちが存在するのですか。子どもたちの身は安全なのでしょうか。
大清水:モンゴルは長くソビエト連邦から支援を受けてきました。しかし、ソビエト連邦の崩壊と同時にモンゴル経済も崩壊し、高い失業率が続きました。マンホールチルドレンは、モンゴルの経済問題の産物ともいえると思います。また多くの子どもたちが人身売買の犠牲になっているそうです。早く安全な場所を提供してあげたいと願っています。
記者:具体的にどのような活動をしていますか。
大清水:「モンゴルキッズの家」の目標は「マンホールチルドレンが、安心して暮らすことができ、将来の自立を目指した生活訓練を受けられるホームを、モンゴルの教会を通して作ること」です。活動の第1段階は、グループホームの建設と現地ボランティアの基礎訓練であり、そして実際に受け入れる子どもたちの選択と入居になります。また、これらのプロジェクトを可能にする資金を集めることです。
記者:子どもたちが一番必要としていることは何ですか。また、現地スタッフが必要としていることは何ですか。
大清水:まず厳しい冬が来る前に、できるだけ早く、子どもたちがマンホールの生活から脱出できるようにしてあげることが必要です。そして次に、自立に向けての教育が必要です。また現地スタッフは、ネグレクト(育児放棄)された子どもたちの教育者となる訓練を専門家から受けることや、施設の管理者となるための教育を受けることが必要になります。
記者:世界中で災害や戦争があふれる中、平和な国に住んでいる私たちは、海外で起こるこのような状況になかなか心が向かないことがあります。このような無関心をどうしたらよいと思いますか。
大清水:まず、平和な国に住んでいること、毎日の生活が守られていることに感謝すべきだと思います。「いつも喜んでいなさい。絶えず祈りなさい。すべての事について、感謝しなさい」(1テサロニケ5:16〜18)と聖書に書かれている通りです。自分が足りていることを知ると、足りていない人のことを思うことができると思います。
第2次大戦後、日本でも子どもたちが社会の犠牲者となった時期がありました。しかし、豊かになった今の日本では、苦しむ人々の生の声さえ現実味のないものと聞こえるでしょう。自分が実体験したことでなければ、なかなか理解できないかもしれません。しかし、豊かな生活を送りながらも注意してみると、自分の住む街、働く街で、厳しい状況に置かれている人は多くいるはずです。マンホールチルドレンは極端な例かもしれませんが、慰めを必要としている人々に、常に心を配る必要が私たちにはあると思います。
記者:最後に読者へ一言お願いします。
大清水:私たちは、神様から一方的に愛されて今、生かされています。受けた愛を人に与えることは、神様が望まれることです。助けが必要な人に思いのある方が手を差し伸べる。「モンゴルキッズの家」は愛の行動であり、信仰の実践だと思います。主の同労者となって、神様のなさる素晴らしい御業を一緒に体験してみませんか。
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「モンゴルキッズの家」では現在、祈りによるサポート(Dream Together 1000)のほかに、自分が住む地域で活動をPRするボランティア(地域コーディネーター)や、モンゴル現地で活動するボランティアを募集している。詳細はサポーター募集のページを。また、献金は9月30日までを第1期として、600万円を目標にしている。この献金でホーム1軒を設置する計画だ。その他希望する用途別での献金も可能。日本からの献金は税金控除の対処にならないが、米国と韓国からの献金は対象となるという。詳しくは献金のページを。