ローマ教皇フランシスコは、カトリック教会の教理をまとめた『カトリック教会のカテキズム』の死刑に関する項目の改訂を承認した。同書にはこれまで、死刑は制限されるべきものだが「皆無ではないにしても、非常にまれ」にあると記載されていた。これが改訂により「死刑は認められません。それは人間の不可侵性と尊厳への攻撃だからです」と、明確に死刑に反対する内容に変わった。さらに、カトリック教会全体が死刑廃止に向けて働き掛ける姿勢も示した。バチカン(ローマ教皇庁)が2日、公式サイト(英語)で発表した。
バチカンの発表によると、改訂されたのは『カトリック教会のカテキズム』の2267項。改訂された同項は、死刑は長年、重大犯罪に対する適切な対応として、また共通善を守る手段として考えられてきたが、人間の尊厳に対する意識の高まり、国家が科す刑罰の意義についての新しい理解の登場、効果的な拘留システムの発展を考えた結果、カトリック教会は「死刑は認められません。それは人間の不可侵性と尊厳への攻撃だからです」と教えるとしている。
死刑を明確に否定する言葉は、教皇フランシスコが昨年10月、教皇庁新福音化推進評議会で参加者に向けて語ったあいさつからの引用。教皇が改訂を承認したのは今年5月11日のことで、各言語に翻訳した上で『カトリック教会のカテキズム』のすべての言語版に反映させるよう命じたという。
教皇庁教理省長官のルイス・ラダリア枢機卿は2日、今回の改訂に関して世界の司教らに宛てた書簡(英語)を発表。改訂の経緯や、歴代教皇らの死刑をめぐる見解などを説明した。
それによると、先々代の教皇ヨハネ・パウロ2世は、回勅『いのちの福音』(1995年)やクリスマスのメッセージなどで、死刑廃止を訴える内容を発信しており、先代の教皇ベネディクト16世も、死刑廃止のための努力を社会に求めてきた。
英ガーディアン紙は3日、社説(英語)でこの改訂を取り上げ、歓迎する意向を示した。死刑廃止が世界的な潮流である一方、現代政治を分断させる一つの課題になっているとし、米国ではカトリック教会内でも異なる意見が出ていることを紹介した。また、欧州のほとんどの主流派教会は長年にわたり、死刑制度を強力に支持してきたと指摘。英国国教会は、教理要綱「39箇条」(聖公会大綱、1563年)で、当時の急進的なプロテスタントに対して、死刑の実施もいとわない姿勢を記載していることを例に挙げた。その上で、カトリック教会においても、死刑に対する方針転換はここ50年余りのことだが、こうした変更は「保守的な組織が生き残るために見習うべき教訓だ」と論じている。
『カトリック教会のカテキズム』は、教皇ヨハネ・パウロ2世によって公布された、カトリック教会の教理に関する公式な解説書。1992年にフランス語版が発行され、幾つかの修正を経て、97年にラテン語規範版が発行。それから翻訳された日本語版は、2002年にカトリック中央協議会から出版されている。900ページ余りに及ぶ大著で、後にその公式の要約(コンペンディウム)も出版されている。
日本のカトリック中央協議会が発表した、改訂後の2267項日本語暫定訳は下記の通り。正式な日本語訳は後日発表される。
2267 合法的な行政機関が、公正な裁判に従い死刑を用いることは長年、特定の重大犯罪に対する適切な対応であり、たとえ極端ではあっても、共通善を守るための手段として受け入れられると考えられてきました。しかしながら、今日、たとえ非常に重大な罪を犯したあとであっても人間の尊厳は失われないという意識がますます高まっています。加えて、国家が科す刑罰の意義に関して、新たな理解が現れてきています。最後に、より効果的な拘留システムが発展してきており、それによって市民の安全を適正に確保することができますが、同時に、犯罪者から罪を償う可能性を決定的に奪うことはありません。
これらの結果として教会は、福音の光に照らして次のように教えます。「死刑は認められません。それは人間の不可侵性と尊厳への攻撃だからです」【1】。さらに教会は全世界での死刑廃止のために決然と働きます。
注1. 教皇フランシスコ、「教皇庁新福音化推進評議会の会議参加者へのあいさつ、2017年10月11日」(オッセルバトーレ・ロマーノ、2017年10月13日号)