By Dr. K. Kinoshita(木下和好)
YouCanSpeak 開発者・同時通訳者
元NHK TV・ラジオ 英語教授
<英語漬けでない子どもの効果的学習7大要素>
子どもの英語を母国語レベルに引き上げるための一番良い、また確実な方法は、9歳以下の時に毎日最低1時間、英語だけの環境の中で生活させることであるが、普通の日本人の家庭に生まれ、日本国内で育つ子どもたちには、そのような環境提供は難しい。でも環境的に不利な状況下にある子どもであっても、英語の学びの中に7大要素が揃っていれば、かなりのレベルに達することが可能となる。
以下が英語学習の7大要素である。
- 最低限の学習時間が確保されている
- 英単語の領域に留まらない
- 意味と音声が合体する練習になっている
- 自分の意思で言い方を選択している
- 能動的能力の練習が実行されている
- 英語が音読できるようになる
- 12歳になるまでは続けさせる
前回に続き、今回は後半の3大要素について考えてみよう(関連記事:英語お宝情報(26)子どもの効果的英語学習法・その1)。
<親の話す言葉が母国語になるとは限らない>
残りの3大要素の話題に移る前に、子どもは環境に大きく影響されるという課題に触れてみよう。母国語(mother tongue)は、子どもの一番近くに存在する母親が話す言葉を習得するからそう呼ばれるのではない。なぜなら世界には、生まれてからずっと父母と一緒に生活しているにもかかわらず、父母が話す言葉ではなく、異なる言語を母国語としている人が数限りなくいるからだ。
子どもは、もちろん毎日聞く父母の言葉を100パーセント理解することができる。でも、その言語で話すとは限らない。例えば、日本人家族が米国に移住し、家庭内で日本語を使い続けても、小さな子どもの場合、父母が使う日本語ではなく、回りの人たちが使う英語を話すようになる。それに対して何の策も取らないと、日本語で聞いて英語で返答するという形になり、日本語がまったく話せない日本人になってしまう危険性が高い。
小さな子どもは、周囲で使われている言葉(例えば英語)をほんの2~3カ月で習得してしまう。また、回りの子どもたちと違う言語を使うのに抵抗を感じるので、親が家で話す日本語を100パーセント理解しても、英語だけを話すようになる。米国人家族が日本に住むようになった場合も、もし子どもが普通の日本の幼稚園・小学校に通い始めると、親がいくら毎日家で英語を話していても、子どもは日本語で応答するようになる。これが現実だ。
外国生活の中で親の母国語を子どもにも母国語として習得してほしいと考える親は、家でただ話すだけでなく、子どももその母国語を口に出すことができる環境を整える必要がある。海外生活の長い日本人家族は、子どもを日本人学校に通わせたり、週末だけの日本語クラスに通わせたり、長い休みの時は帰国させて、臨時に日本の学校に通わせる場合が多い。日本に住んでいる米国人の場合は、インターナショナルスクールやアメリカンスクールに通わせるケースが多い。さもないと、親と子どもの母国語が異なってしまう可能性が高い。
人はある言語をただ聞くだけでは、その言葉を話せるようにはならない。たとえその意味が100パーセント分かっても。その実例は数えきれないほどある。
<能動的能力の練習>
英語に限らず全世界で使われているありとあらゆる言語は、それを使いこなすためには「受動的能力」と「能動的能力」という2種類の能力が備わっている必要がある。「受動的能力」は「聞く力・読む力」のことで、他人が作った文章を聞き、あるいは読んでその意味を理解する能力を指す。文章を自ら作り出すのではなく、他人が作った文章の意味を受け止めるということで、「受動的能力」となる。一方「能動的能力」は「話す力・書く力」を指し、自ら瞬時に文章を作り出し、それを音声にしたり文字にしたりする能力のことを指す。
会話の場合は音声だけなので、「聞く力(受動)」と「話す力(能動)」ということになる。これら2つはまったく異なる能力で、使われる脳の部分も異なる。鼓膜でキャッチされた音の響きは、Wernicke’s Area と呼ばれる脳の働きで意味(イメージ)に変換される。習得済の言葉であれば、Wernicke’s Area がそれを瞬時に意味化させるので「聞いた言葉の意味が分かる」ということになる。
一方、自分の思い(イメージ)を文章に変換するのが Broca’s Area という脳の部分である。Broca’s Area は習得済の言葉の必要要素を瞬時に組み合わせ、思い(イメージ)を文章化し、それを神経パルス化し、声帯・舌・唇・下顎の運動神経に連動させて音声化させる。この一連のプロセスにより「話す」ことが成立する。
このように「聞く力」と「話す力」はまったく異なる能力であり、また使われる脳の部分も違うので、2つの能力が並行して伸びていくとは限らない。親が家で話している言葉を理解できるのは、その言語に関して Wernicke’s Area の働きが活性化されるためである。
親の母国語ではない言語が使われている場所に住んでいる子どもたちは、回りで使われている言語に関しては、Wernicke’s Area と Broca’s Area の両方が活性化され、その言語を聞くことも話すこともできるようになる。でも、親の話す言語に関しては Wernicke’s Area しか活性化されず、Broca’s Area による能動的能力はなかなか身に付かない。その結果、親の話す言葉は100パーセント理解できても、その言語を話す能力はゼロという現象が起こり得る。
日本に住む、英語を母国語とする親が子どもに毎日英語で語り掛けても、その子どもの生活言語が日本語だった場合、すなわち日本の保育園や小学校に通った場合、何か対策を取らない限り、子どもは英語を話さなくなり、また話せなくなる。毎日英語を聞いているにもかかわらず。
ましてや、日本で暮らす普通の日本人の子どもに英語を学ばせるとき、明確な学習法に従わなければ、子どもは決して英語を話せるようにはならない。どんなに英語を聞かせ、意味を理解させるように仕向けても、それだけでは絶対に英語の能動的能力、すなわちスピーキング力は身に付かない。
子ども英語クラスの様子を見ると、ほとんどの時間が受動的能力向上のために費やされているようだ。すなわち、聞いてその意味を理解させるという学習だ。それを続けることにより、いつか英語が話せるようになると錯覚している指導者も少なくない。もし聞かせるだけで話せるようになるなら、外国に住んでいる子どもが親の話す言葉をまったく話せないという現象は起きないはずである。
子どもに本当の英語の実力を身に付けてほしいなら、「受動的能力」と「能動的能力」の両方の要素を含んだ学習法が必須である。そのためには徹底的に読ませ、言わせることが重要だ。
<英語が音読できる>
回りが日本語で満ちている日本という環境の中では、たとえ親が家で毎日英語を話していても、子どもは日本語で返答する可能性が高いことを考えると、普通の日本人の子どもに英語を話させるのはそんなに簡単なことではない。良い教材を使えばその問題を解決できる。でも、教材に左右されることなく、子どもの口から英語音声を引き出す方法もある。それは、子どもに英語のリーディング力(音読力)を身に付けさせることだ。
私は子どもが幼稚園の時から小学6年になるまで、毎日登校前の30分に英語の本を読ませることにエネルギーを注いだ。黙読ではなく音読で。意味を理解できないときはヒントを与え、時折本の内容に関して質問し、それに答えさせた。最初はスラスラ読めないけれど、1年、2年、3年とたつにつれ、リーディングが楽になり、やがてかなりのスピードで読めるようになった。
私の狙いは「英語を口に出して言わせる」ことだった。本を読むこととスピーキングは同じではないが、イメージ(スピーキングの場合は自分の思い、リーディングの場合はストーリーの内容)を音声にするという意味では同じである。ということは、声を出して読むことはスピーキング練習そのものということになる。また、リーディングを通して語彙が増え、英語の豊かな表現も身に付く。
そういえば、私も中学生から大学を卒業するまで、英語の雑誌・新聞・本を音読していた。今考えると、その習慣は私の英語スピーキング力にかなり大きな役割を果たしたと確信している。
<12歳までは続けさせる>
もう1つ大切なことは、子どもの英語教育をいつまで続けさせるかである。私は東京で幼児から大人までのクラスを揃えた英会話学校を始めた。いろいろな人たちからいろいろな問い合わせが来たが、子どもクラスに関しての典型的質問は「何歳から受け入れますか?」であった。「子どもはまだ1歳だけど入会できますか?」という質問を受けたこともある。オムツをしていないことを入会条件にしたので、結果的に4歳が最年少の子どもということになった。
「何歳から受け入れますか?」という質問は非常に多かったのに、「何歳まで続けさせたらよいですか?」という質問をした親は1人もいなかった。実は、その質問の方がはるかに重要なのに。大抵の親は、英語教育はなるべく早期に始めるのが良いと思っているようだ。それには一理あるが、開始時期は9歳未満であるならば、さほど大きな違いはない。
でも、子どもの言語習得で一番重要な時期は10歳から12歳であることをほとんどの人は知らない。10歳から12歳の時期に脳内で母国語が確立し、生涯その言葉を使うようになる。それ以降に学ぶ言葉はあくまでも第二言語となる。それで、子どもに英語を習得させるためには、最低12歳になるまで、あるいは小学校を卒業するまで続けさせないと意味が無い。
小さい時に米国で生活し、英語が母国語レベルになっている子どもでも、親の都合で9歳以下の時に帰国すると、ほんの2~3カ月で英語を完全に忘れ、日本語に切り替わってしまう。ましてや母国語とはほど遠いレベルの英語を習得した子どもが小学校の途中で英語学習を辞めたら、脳内に何も残らない。発音は運動神経と関連しているので、生涯英語をきれいに発音できるかもしれないが、後から英語を勉強し直さなければならなくなる。
子ども英語クラスをしていたとき、子どもが小学校4年になる頃、手土産を持ってあいさつに来る親が多かった。私はそんな時、何の用事で来たのかを容易に推測できた。ほぼ例外なく「長い間お世話になりました。おかげで子どもは英語が好きになり、びっくりするほど覚えました。英語は十分勉強できたので、これからは中学受験のための塾に通わせたいと思います」という退会のあいさつであった。
「今英語の学びを辞めたら全部忘れてしまいますよ。少なくとも小学校を卒業するまで続けた方がいいですよ」と本音を言いたかったが、いつも親の気持ちを尊重せざるを得なかった。「今までの月謝と時間が無駄になりますよ」とは到底言えなかった。でも、それが日本の子ども英語教育の実態だ。
私は2人の子どもに毎日30分英語を教えたが、小学校6年の1学期まで続けた。それ以降、彼らに英語の指導をしたことは1度もない。でも、彼らはバイリンガルになり、2人とも英語力を生かして米国企業の日本支社で活躍している。
英語スピーキング上達プログラムはこちら。
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