By Dr. K. Kinoshita(木下和好)
YouCanSpeak 開発者・同時通訳者
元NHK TV・ラジオ 英語教授
<同じ単語でも発音が異なるケース>
田原(タハラ)という苗字は、地域によっては「タバル」と発音される。また、藤原(フジワラ)は「フジハラ」と発音されることもある。英語でも “direct” を「ディレクト」と発音したり「ダイレクト」と発音したりする。このように同じ漢字、あるいは同じスペリングの英語でも、発音が異なるケースは多い。ただ、発音が異なったからといって、あくまでも「田原」は「田原」であり、「藤原」は「藤原」、そして “direct” は “direct” で、2つの異なる単語に分化したわけではない。
<トラックとトロッコの違い>
ところが、英語が日本に入ってきたときに、もともとは1つの同じ意味の単語なのに、日本では発音が分化し、意味も変化してしまった例が幾つもある。典型的な例が「トラック」と「トロッコ」である。日本では「トラック」は道路を走る荷物運搬車で、「トロッコ」はレールの上を走る荷物運搬車を意味する。でも、もともとはどちらも “truck” だった。
“truck” の本来の意味は「荷物を運んだり牽引するエンジン付き車両」で、道路を走る車両もあれば、レール上を走る車両もあった。でも “truck” という英語が日本に入ってきたとき、なぜか人々は「道路を走る車両」を指すときは「トラック」と発音し、「レール上を走る車両」のことを言う場合は「トロッコ」と発音するようになった。こうして日本では、もともと1つの単語であるはずの “truck” が、発音も意味も異なる2つの単語に枝分かれしてしまった。
ついでながら、日本でいう「トロッコ」は、英語では “mine train”(炭鉱列車)とか “mine car”(炭鉱車)と呼ばれることが多い。観光用の「トロッコ列車」は “tram” とか “tramcar” になる。
<バレーとボレーの違い>
“volley” も “truck” と同様、日本に来てから2つの単語に枝分かれした。“volleyball” は「バレーボール」と発音されるが、テニスやサッカーで飛んで来た球を空中で打ち返す行為を「ボレー」と呼んでいる。すなわち日本では “volley” を「バレー」と「ボレー」のように異なる発音、また異なる単語であるかのごとくに使うようになった。でも英語では、バレーボールでも、テニスでも、サッカーでも同じ “volley” で、意味も同じだ。
実は “volley” には、球が地面に触れる前に打ち返すという意味がある。バレーボールが “volleyball” と呼ばれるのは、コート内の床に球が落ちる前に打ち返さないと相手の得点になってしまうスポーツだからだ。テニスやサッカーの場合も、球が地面に落ちる前に打ち返せば “volley” と表現される。でもなぜか日本では、スポーツにより「ボレー」と「バレー」を区別するようになった。“volleyball” を「ボレーボール」と発音するか、あるいはテニスやサッカー用語の「ボレー」を「バレー」と発音すれば、1つの発音、そして1つの意味として一貫性を保つことができたのではないだろうか。
<バーとバールの違い>
英語では1つの単語なのに、日本で発音も意味も枝分かれした3つ目の例は “bar” だ。“bar” にはいろいろな意味があるが、第一義的意味は「比較的長く真っすぐな硬い丈夫な物」である。でも “bar” が日本に入ってきたとき、“r” を発音する「バール」と “r” を発音しない「バー」に分化し、意味も分かれてしまった。その結果、大工道具として使う “bar” は「バール」に、そして走り高跳びや棒高跳びなどの “bar” は「バー」となった。
イギリス英語では “bar” の “r” を発音しないが、アメリカ英語では “r” を発音する。でも、発音が違うからといって “bar” の意味が異なるわけではない。
<一貫性の無い “r” の発音の有無>
ついでながら日本では、“ar” や “or” を含む単語の “r” を発音したり発音しなかったりする。でも、そこに規則性は見受けられない。例えば、楽器の “horn” の場合、“r” が発音され「ホルン」となるが、トウモロコシの “corn” の場合は “r” が無視されて「コーン」となる。また、“tart”(甘いものが入った丸いパン)の時は “r” が発音され「タルト」となり、“art”(芸術)の場合は “r” が消えて「アート」となる。
“r” を発音するかしないかの一定のルールがないのは、それぞれの英単語を日本語の中に取り入れた影響力のある日本人が、時には “r” を発音し、別の時には発音しなかったからだろう。そして、一貫性のないまま異なる発音が日本中に広まってしまったようだ。
<和製英語のタイプ>
和製英語には次のような6つのタイプがある。
- 英語としてまったく使い道がない
- 日本語と英語の合成語
- 発音が本来の英語からかけ離れている
- 本来の英語の意味からずれているか、まったく異なる意味を持つ
- 品詞(動名詞とか過去分詞 etc)の使われ方が本来の英語とは異なる
- 元の英語と同じ意味であると勘違いされている和製英語
以上の日本独特の英語は、タイプ3+タイプ4になる。
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