By Dr. K. Kinoshita(木下和好)
YouCanSpeak 開発者・同時通訳者
元NHK TV・ラジオ 英語教授
<エールで思い浮かぶこと>
「エール」という発音を聞いたとき、日本人は何を思い浮かべるだろうか。「ハーバード大学」と肩を並べる名門校「エール大学」を真っ先に思い浮かべる人もいるだろう。あるいはスポーツ選手を励ましたり、特定の相手を応援するときの「エール」が頭に浮かぶかもしれない。あるいはアルファベットのLを連想する人もいるだろう。英語の語彙力がある人は ail(~を苦しめる)というちょっと難しい単語が思い浮かぶかもしれない。
でもこれらの4つの単語はすべて発音が異なる。Yale University(エール大学)の Yale は [jeil] でヤ行の [j] という発音と、母音が [e] から [i] に変化するのがその特徴だ。励ましたり応援するときの yell(エール)は Yale に似ているが、[jel] という発音で、母音が [e] から [i] に変化せず、[e] だけである。アルファベットのLは [el] で、[j] の発音が無い。ail は [eil] で、母音が [e] から [i] に変化するが、やはり [j] の発音が無い。整理してみると [jeil] [jel] [el] [eil] となる。ただ、4つの単語の共通点は [e] と [l] の2つの発音があることだ。
<エールは送ることができない>
以上の4つの単語で、励ましたり応援するときのエール(yell)は発音だけでなく、その使われ方も和製英語になっている。
まず発音だが、英語の yell は [jel] と発音される一方、エールというカタカナ英語は [e:l] で [j] という子音が抜けており、[e] という短い母音が [e:] と長くなってしまっている。さらに言うと、エールは日本では [e:ru] と発音され、[l] が [r] になり、余分な [u] という母音も入っている。よって、エールと yell では、発音が著しく異なることが分かる。「エール」というカタカナ発音を聞いて “yell” を思い浮かべるアメリカ人は1人もいないだろう。
このように「エール」と “yell” では発音がまったく異なるので、「エール」をそのまま英語として使うことはできない。でももう1つ注意しなければならないのは、「エール」と “yell” の意味の違いだ。
<yell の本来の意味>
英語の “yell” には、以下のような意味がある。
1. 「叫ぶ」「怒鳴る」 Don’t yell at me.(私に向かって怒鳴るな)
2. a rhythmic cry of words or syllables, used to encourage a team in unison(チームを励ますためにリズムに乗せて単語や節を声を合わせて言う叫び声)
でも、日本で使われている「エール」は「声を合わせて言う応援の叫び」という意味ではなく、「励ましの言葉」という意味で使われるケースがほとんどだ。「私たちは彼のユニークな研究にエールを送った」を英語で “We yelled for his unique research.” と言いたくなるが、その英文は、大勢のチアリーダーたちが踊りながら一斉に叫んでいる光景を思い起こさせてしまう。このように「励ましの言葉」を掛けるときには “yell” を使うことはできない。
<和製英語のタイプ>
和製英語には次のような6つのタイプがある。
1. 英語としてまったく使い道がない
2. 日本語と英語の合成語
3. 発音が本来の英語からかけ離れている
4. 本来の英語の意味からずれているか、まったく異なる意味を持つ
5. 品詞(動名詞とか過去分詞 etc)の使われ方が本来の英語とは異なる
6. 元の英語と同じ意味であると勘違いされている和製英語
エールは、タイプ3+タイプ4になる。
<エールを英語でどう表現したらよいか>
日本語式の「エール」をそのまま “yell” で表現することはできないので、以下のような英語を使わなければならない。
例1)
~にエールを送る。
⇒ send a shout-out to ~
send words of cheer to ~
例2)
~に心からのエールを送る。
⇒ send hearty cheers to ~
☆ただし、スポーツの応援に関連して言う場合は、yell を使うことができる。
例1)
エールを交換する。
⇒ exchange cheers (yells)
例2)
彼らはお気に入りのチームにエールを送った。
⇒ They cheered (yelled) for their favorite team.
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