By Dr. K. Kinoshita(木下和好)
YouCanSpeak 開発者・同時通訳者
元NHK TV・ラジオ 英語教授
<merit の意味の和製化が通訳にも影響を与えた!>
私はある時、宣教師の英語でのメッセージを聞いていた。通訳者は場馴れした感じでスラスラと日本語に訳していた。でも、ある文章に来たとき、私はギョッとした。宣教師は “When we realize that we don’t have any merits before God…” と言ったのだが、通訳者はそれを「われわれは神の御前では何の益を得ることも無いことに気づいたとき・・・」と訳したのだ。この訳だと話の流れが突然変わってしまい、つじつまが合わなくなってしまうわけだが、メッセージはそのまま続き、全体の流れとしては素晴らしい内容で、聞いている人々に感動を与えるものとなった。
通訳者の日本語を通して話を聞いていた人たちの何人が、あの文章の訳が文脈的に少しおかしいと気付いたかは分からないが、私は “merit” の意味が和製化された影響が通訳者にまで及んでいたことに愕然(がくぜん)とした。“When we realize that we don’t have any merits before God…” の本当の意味は、「われわれは神の御前では、称賛に値するような特質を何も持ち合わせていないことに気付いたとき・・・」である。通訳者が “merits” に「利益」の概念を持ち込んでしまったことが間違いだった。
<和製英語のタイプ>
和製英語には次のような6つのタイプがある。
- 英語としてまったく使い道がない
- 日本語と英語の合成語
- 発音が本来の英語からかけ離れている
- 本来の英語の意味からずれているか、まったく異なる意味を持つ
- 品詞(動名詞とか過去分詞 etc)の使われ方が本来の英語とは異なる
- 元の英語と同じ意味であると勘違いされている和製英語
「メリット」「デメリット」は4と6のタイプになる。
<メリットの本当の意味>
日本ではメリットは「有利な点・利益」という意味で使われ、デメリットは「不利な点・損失」という意味で使われていて、個人的な会話だけでなく、新聞・雑誌・ラジオ・テレビなどでも日常的にそういう意味でごく自然に使われている。そして、英語を知っているはずの人たちにまで、その影響が及ぶことがある。日本語がよくできるアメリカ人たちも、和製化された英語をそのまま使うことがよくある。彼らの場合は、英語と和製英語を使い分けているわけだが、英語を2重に覚えるという負荷がかかっている。
英語の “merit” は「自分にとって益になること」という意味ではなく、「称賛に値する特質・長所」という意味で使われる。同じように “demerit” は「自分にとって不利益になること」という意味ではなく、「不適切な、または未熟な特質・短所」という意味で使われる。でも日本式「メリット」の場合、“merit” の「長所」という意味が拡大解釈され、「自分にとって益になること」という意味に変化してしまった。同じように反対語の「デメリット」は、“demerit” の「短所」という概念が「自分にとって不利益になること」という概念に変化してしまった。
<メリット・デメリットを英語で言うと?>
このように「メリット」「デメリット」が英語の “merit” “demerit” の意味からそれてしまったので、英語を話すとき、日本式「メリット」「デメリット」をそのまま “merit” “demerit” で表現することは危険である。
日本式「メリット」は、英語では “advantage(利点)”や “benefits(利益)”などの単語で表現すると良い。また、日本式「デメリット」は英語では “disadvantage(不利)” や “loss(損失)” などが使われる。
では「メリット」「デメリット」を英語で表現したらどうなるかの例を幾つか見てみよう。
例1)「メリットとデメリットを検討する・比較する・天秤にかける」は英語では “consider / compare / weigh up the advantages and disadvantages.” となる。
例2)「その企画はメリットが多くデメリットが少ない」は、英語では “The plan has many advantages and few disadvantages.” となる。もし “The plan has many merits and few demerits.” と表現すると、「その企画は長所が多く短所が少ない」という意味になり、「利益・不利益」の概念が薄くなる。
例3)「彼の提案にはメリットが数多い」は英語では “There are numerous benefits to his proposal.” となる。
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