By Dr. K. Kinoshita(木下和好)
YouCanSpeak 開発者・同時通訳者
元NHK TV・ラジオ 英語教授
<子どもの英語が母国語レベルになるための2つの条件>
どの親も子どもに英語を習得してほしいと思っているが、もし母国語レベルの習得を願う場合は、以下の2つの条件を整える必要がある。
1. 年齢
自然に無意識的に言葉を習得できるのは0~9歳である。この時期に子どもに十分に英語に触れさせ言わせるようにすると、英語を母国語レベルに引き上げることが可能になる。この時期を過ぎてから学ばせるときは、習得法に工夫が必要となる。
2. 英語に触れる時間の絶対量
0~9歳の子どもに英語環境が与えられると、すなわち英語に触れる絶対量が確保されると、親の母国語が何であれ、子どもは英語を母国語にすることができる。この時期に複数の言語に触れることができれば bilingual、trilingual、multilingual にもなり得る。
<英語に触れる絶対量は最低何時間?>
0~9歳の子どもが英語漬けになれば、母国語のように習得するわけだが、1日24時間英語に触れなければならないという意味ではない。8時間の睡眠時間を除いた16時間のうち、人と対話したりテレビを見たりして実際に音声が行き交う時間は、最大でも6時間程度なので、毎日6時間英語に触れれば十分である。
でも、子どもには一度に5~6カ国語を習得する能力が備わっているので、5~6カ国語を覚えてしまう子どもは、毎日1つの言語に1時間程度触れる計算になる。すなわち実生活の中で毎日最低1時間英語を聞き、また話す環境が与えられれば、その子どもは英語を母国語レベルに習得することができるということになる。そして、このような環境提供は英語圏以外でも可能である。
<英語漬けでない子どもの効果的学習7大要素>
子どもの英語を母国語レベルに引き上げるための一番良い、また確実な方法は、9歳以下の時に、毎日最低1時間、英語だけの環境の中で生活させることであるが、普通の日本人の家庭に生まれ、日本国内で育つ子どもたちにそのような環境を整えることは簡単ではない。しかし、環境的に不利な状況下にある子どもであっても、英語の学びの中に7大要素が揃っていれば、かなりのレベルに達することが可能となる。
以下が英語学習の7大要素となる。
- 最低限の学習時間が確保されている
- 英単語の領域に留まらない
- 意味と音声が合体する練習になっている
- 自分の意思で言い方を選択している
- 能動的能力の練習が実行されている
- 英語が音読できるようになる
- 12歳になるまでは続けさせる
「子どもの効果的英語学習法・その1」では、前半の4要素について述べてみよう。
<最低限の学習時間>
日本国内で実施されている子ども英語クラスは、大抵の場合、週に1度1時間程度である。でも生活環境にマッチした英語、すなわち日々の生活に即応用できる英語の習得のために費やされる時間は、その何分の一にすぎないというのが実態だ。もし子どもに英語習得の気持ちや意欲が無ければ、1時間のレッスンに参加してもまったく英語に触れていないと同じことになってしまう。このようなレッスンが何年続いても、英語の上達は望めない。
このように、週1回1時間の英語クラスに通わせるだけでは不十分なので、子どもの英語上達を真剣に考えるのであれば、親の工夫あるいは努力が必要となる。そこでお勧めなのが、ディズニーアニメやその他の子ども向きドラマを英語で見る習慣を身に付けさせることである。
親も一緒に見て楽しむことが理想的である。なぜなら子どもは親の関心のあることに関心を持ち興味を抱くからだ。でも親に時間の余裕が無い場合、見る環境を整えてあげ、興味を共有することはできる。PC上で学べる学習プログラムがあれば、それらを活用するのもよい。
親のちょっとした工夫と努力で、子どもは英語をドンドン吸収していくようになる。そのためには毎日最低15~30分は英語に触れる環境を整えてあげることが重要だ。英語教室に通わせているだけではお稽古ごとの領域を脱することが難しく、退会したと同時に英語を卒業してしまうことになる。特に9歳以下の子どもたちは短期間で英語をすっかり忘れてしまい、レッスン代と英語お稽古事に費やされた時間が無駄に浪費されたことになる。
<単語の領域に留まらないこと>
子ども英語クラスではほとんどの場合、絵や動作で示しながら単語を覚えさせることに重点が置かれている。“apple” “cat” “desk” のように。子どもたちは先生の模範英語を聞きながら、それらの単語を覚えていく。そして、親は子どもがいろいろな英単語を言えるようになる様子を見て喜ぶ。発音がネイティブ並みだとその喜びはさらに増す。何百もの英単語がスラスラ言えるようになれば、わが子は語学の天才だと思い込むこともあるだろう。
このように、単語中心に子どもに英語を教える教室が多く、日本の小学校に派遣されているALT(assistant language teacher)も、単語を中心に教える傾向がある。単語を教える方が楽だし、また学習成果も出やすい。それに比べ、英文学習の方はあまりうまくいかないようだ。どのタイプの文章をどの順序でどのように教えたらよいかよく分からないというのがその理由かもしれない。
単語だけでは物足りないことは分かるので、英語の歌を教えたり、歌に動作を付けたり、踊りながら歌わせることも多い。それにより、子どもたちは英語のリズムの感覚や発音も覚える。それは良いことではある。
もちろん英単語を知らなければ英語を話すことは決してできない。単語を多く知っていればいるほど有利なことは確かだ。でも、もし単語を覚えさせることにだけに大半の時間が費やされると、英語を教えているつもりが、実はまったく教えていないということになり得る。単語だけでは生きた英語という言葉にはならないからだ。
英語と日本語の違いを決定づけるものは、単語ではない。英語的文脈から切り離された英単語は、言葉という観点から見ると日本語の単語と何ら変わらない。「机」を “desk” と言えたとしても、それだけで英語力が身に付いたことにはならない。英単語を覚えることと英語を覚えることは同じではないからだ。
日本人は英単語を多く使いながら日本語を話している。日本語のニュースを聞いていても、その中に英単語がたくさん出てくる。でも、それらの英単語は日本語の単語と同じ扱われ方をするので、誰も英語のニュースを聞いているとは思わない。日本人が話の中で英単語を多用しても、英語を母国語としている人たちには英語には聞こえない。なぜなら、英単語が日本語として使われているからだ。しかもそれらの多くが和製英語なので、発音も意味も和製化しており、もはや英語とは言えない。たとえ英単語の部分だけを英語的に発音し、また本来の単語の意味をキープしながら日本語文章の中で多く使っても、全体的にはあくまでも日本語であって、英語で話したことにはならない。
<単語は英語として使える必要がある>
約40年前に米国留学を終え帰国し、英会話学校を開設したとき、子どもから大人までの全クラスの教材を私自身が作成したが、こども向けの教材でも最初から英文を教えた。1レッスン8コマの漫画風の教材であったが、すべてが英文で、子どもたちは英文を使いながら単語を覚えていった。すると、覚えた単語はすぐに英語として使える。
“car” だけ覚えた子どもは、“car” を日本語の中でしか使えない。例えば「あの車を見てごらん」を「あの car を見てごらん」のように。しかし、それでは英語を話したことにはならない。でも “Look at that…” という英文の中で “car” が言えるようになれば、ただちに “Look at that car.” という英語が言える。英文にはいろいろな種類があるので、何をどの順序で教えるかの工夫は必要だが、少なくとも何らかの英文を利用して単語を教えていけば、子どもは「英語が話せる」という方向に進みながら実力をつけていくことができる。
<意味と音声が合体する練習>
言葉は「音声」と「イメージ(意味)」の2大要素で成り立っているので、言葉を覚えるとは「音声」と「イメージ(意味)」の合体が起こることを意味する。「こういうイメージ(意味)の時はこういう音声になる」、あるいは「こういう音声はこういうイメージ(意味)になる」ということを習得していくのが言葉の学習ということになる。
それで、子どもが英語を習得するためには、常に「音声」と「イメージ(意味)」がそこに共存していなければならない。具体的に言うと、何かの英語の音声を発するとき、並行して脳内にその「イメージ(意味)」が意識されている状態でなければならない。
ただ先生の後について英語を言ったり、英語の歌を歌うだけでは、音声のみがそこにあり「イメージ(意味)」不在という状況に陥ってしまう。いくら子どもがきれいな発音で英語を言ったとしても、脳内で具体的にその「イメージ(意味)」が意識されていなければ「音声」と「イメージ(意味)」の合体は起こらない。
「音声」と「イメージ(意味)」の合体という意味では、先ほど述べた英語のアニメやドラマを楽しむことは非常に効果的である。なぜなら、ドラマそのものが英語世界の模擬体験となるからだ。内容が面白ければ子どもは内容を追いながら、すなわち「イメージ(意味)」を意識しながら英語の音声を聞くことになる。その結果、本当の意味で英語が身に付くことになる。
私には2人の子ども(4歳違いの男の子と女の子)がいるが、彼らが小さかったとき、NHKで放映されていた “Little House on the Prairie(大草原の小さな家)” を英語音声で毎週一緒に見た。彼らは1つのドラマを一度見ただけでなく、その都度VCRに録画し、毎日帰宅後2度同じドラマを見て楽しんでいた。
内容が楽しかったので、いやいやながらではなく自主的に同じドラマを13回も見ていたことになる。後にバイリンガルになった彼らは、自分たちにとって一番効果的な英語の学習は “Little House on the Prairie” を何度も見たことだったと言っていた。
<自分の意思で言い方を選択する>
子どもは英語の生活環境の中で生きている場合は、覚えて発する英語はすべて自分の意思と直結しているので、正確にまた確実に英語を習得していくことができる。でも、日本語の生活環境の中で限られた時間だけ英語に触れる場合、自分の口から発する英語が自分の意思表示とは限らない。ある英文を先生の後について言うだけでは自分の意思と無関係なので、後ろから誰かに押されてただ一歩前に進むのに似ている。外見上一歩前進したように見えても、その子どもにとっては何も起こっていないのと同じである。
英語を学ぶとき、ただ与えられた英文を言うだけでは自分の意思とは関係ないので、うまく言えたとしても、記憶に深く残ることはなく、すぐに忘れてしまう。英語をきっちり習得するためには、自分の意思で言う必要がある。そのための効果的な学習法が「選択⇒発信」というプロセスである。
例えば、次のような学習法だ。
(1)
1つの概念(イメージ・意味)を絵あるいは文字で示し、それに対応する英文音声を聞かせ、また言えるように練習させる。
(2)
同じように2つ目そして3つ目の概念(イメージ・意味)を絵あるいは文字で示し、それに対応する英文音声を言えるように練習させる。
(3)
次にそのうちの1つの概念(イメージ・意味)だけを絵あるいは文字で示し、それに対して3つの英文音声を聞かせて、示された概念(イメージ・意味)に相応する英文音声を選択させ、また言わせる。
このような「複数の音声の中から自分の意思でイメージに相応する音声を選び、言う」という学習法であれば、そこに子どもの意思が働くことになるので、概念(イメージ・意味)と音声が結合され、意味ある英文として応用力と共に記憶に深く刻まれる。
「選択⇒発信」という学習法にはいろいろな具体的な形があるが、どんな学び方であれ、自分の意思による「選択と発信」という要素は、効果的学習を進めるために欠かせない。(つづく)
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