東日本大震災から満7年となるのを前にした今月2日、宮城県石巻市の長浜幼稚園(後藤竜記園長)で恒例の餅つき大会が開催された。神戸国際支縁機構(岩村義雄理事長)が、震災翌年の2012年から継続して行っている「支縁活動」の1つだ。この日は岩村氏ら同機構のスタッフ3人が約90キロの餅米を持参した。園児たちは臼と杵(きね)を使って餅をついた。
神戸国際キリスト教会の牧師でもある岩村氏は、震災発生後からほぼ毎月、同園がある石巻市渡波(わたのは)地区を中心に訪れ、傾聴ボランティアや農・林・漁にわたる幅広い「支縁活動」を続けている。今回の訪問は83回目。餅つき大会のほかに、自然に触れてもらおうと、無農薬・有機栽培のコメづくりも、同園と協力して12年から行っている。昨年秋に行われたコメの収穫祭では、園児の母親たちが、阪神・淡路大震災で同じく被災した神戸から来たボランティアたちに、震災当時の様子を、まるで昨日のことのように語ってくれた。
「地震の発生から30分もしてから大津波が押し寄せるとは考えていなかった」
「まだ首がすわっていない赤ちゃんをおんぶして『てんでんこ』(※)に逃げるしかなかった」
「赤ちゃんにミルクを飲ませる哺乳瓶を消毒したくても、必要なライフラインがなかった。紙おむつもなく、おしめを洗うこともできず、道の水たまりですすぐしかなかった」
「家が流され、家族を失い、友人や仕事場の同僚もいなくなった恐怖で乳が出なくなり、近所に授乳を頼みに探し回った」
こうした震災後を生き抜いた子どもたちの卒園式を約2週間前に控えた日に、餅つき大会は行われた。当初は1月下旬を予定していたが、大雪のため今月初めに延期。岩村氏は「卒園前に園児たちがどうしてもやりたかった餅つき大会でした」と話す。
年長組の園児たちとは、春の田植えから秋の稲刈り、脱穀、収穫祭、そして餅つき大会まで、1年を通して触れ合ってきた。昨年春に出会ったときは「例年の園児たちより一回り幼く見えた」というが、会う度に成長していった。
餅つきをする前には、両親や地元の人たちを前に、年長組全員で手話を交えての実演も。「1年でこんなに成長した陰には、後藤園長をはじめ多くの教師たちの、ひたむきな教育者としての献身的な情熱と使命感がありました」と岩村氏は話す。
当日朝は雪模様だったが、餅をつき始めるころには晴れ渡った。寒風もまったく気にしない園児たちの「ぺったん、ぺったん」という大きな掛け声が、渡波地区の空いっぱいに響き渡った。
同機構は震災後、「縁(人とのつながり)を支える」という意味を込め、名称中の「支援」を「支縁」に変えた。岩村氏は「私たちと築いた『縁』が、いつまでも虹のように良い思い出となり、学校生活や思春期、受験などで困難にぶつかるとき、共にした体験が生かされることを願っている」と話す。
園児たちからのサプライズもあった。年長組の園児たち41人が、一人一人心のこもった絵手紙を同機構に贈ってくれたのだ。「園児たちが卒園すると、寂しくなる先生がたの気持ちが痛いほど分かる」と岩村氏。被災地の人々と共に生きる同機構の歩みは、震災7年で終わることなく、これからも続いていく。
※ てんでんこ:「めいめい」「各自」を意味する東北地方の方言。「津波てんでんこ」(津波の時は他の人を気にせず各自で逃げる)と津波対策の合い言葉にもなっている。