2011年以降続く内戦により、500万人近くが国外に難民として避難しているシリア。同国北部のアレッポに、紛争で親を失ってしまった子どもたちのために孤児院を建設しようと取り組んでいる神戸国際支縁機構(神戸市)の岩村義雄理事長(神戸国際キリスト教会牧師)らが2月4〜11日、隣国レバノンを訪問。シリアとの国境近くにある難民キャンプを訪れ、支援物資を配布したほか、孤児院建設に向け現地の状況を視察した。
岩村氏らがレバノンの難民キャンプを訪れるのは、昨年12月28日〜今年1月4日の訪問に続いて、今回が2回目。現地は日本とほぼ同じ緯度にあり、レバノンとシリアの国境となっているアンチレバノン山脈(最高峰2814メートル)は深雪に覆われていたという。レバノンの首都ベイルートに到着後、聖書にも登場する異邦の神バアル(フェニキアの神ハバド)が祭られていたとされる古代遺跡があるベッカー高原を通って、シリアとの国境近くにある難民キャンプを訪れた。
岩村氏らが訪れた難民キャンプでは、約150人のシリア人難民が、空き地の一角にブルーシートなどで作った簡素なテントを張り、家族単位で集団生活していた。排泄物などで悪臭も漂い、環境はよくなかったという。現地では粉ミルクや食糧などを配布した。現地の難民の話によると、国連は毎月100ドルほどの支援を約束したが、2017年は一度も実現されなかったという。
岩村氏は、「国際社会はまったくと言ってよいほどシリア情勢に関心を示しておらず、難民のケアに必要な支援金はほとんど足りていません」と訴える。「水も足りなければ、食糧も足りません。被災地にライフラインがない状態のようです。教育も行き届かなければ、医療も足りません。それにもかかわらず、難民の数はさらに増えていこうとしています」
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の昨年7月の報告によると、シリアの人口約1856万人のうち、国内避難民は約650万人、国外避難民は約515万人と、人口の6割近くが国内外で避難を強いられている。「殺りくの温床と化してしまった美しい国での殺人は日常茶飯事になり、世界のニュースでも取り上げられなくなっています」と、岩村氏は危惧する。
一方、岩村氏は現地の紛争について、宗教間の違いが原因ではないと話す。キリスト教徒とイスラム教徒が結婚する例もあり、そうしたケースではイスラム教徒が教会に、またキリスト教徒がモスクへ行くという。シリアの首都ダマスカスにある「ウマイヤド・モスク」は現存する世界最古のモスクだが、3つある塔のうち中心の最も高い塔は「イーサ(アラビア語でイエス)の塔」と呼ばれ、イスラム教徒からも重要視されている。
もともとは洗礼者ヨハネを記念した教会だったが、7世紀にイスラム教の支配下になると、モスクに改装された。しかし現在もキリスト教徒にとって、重要な巡礼地の1つとされており、世界遺産にも登録されている。
「中東に滞在して明確に体験したことは、庶民の間では宗教間の対立はまったくないということでした。宗教対立は、むしろ政治家が利用しているにすぎません」
神戸国際支縁機構が孤児院の建設を予定しているアレッポは、内戦前は首都ダマスカスを上回る人口が集中する同国最大の都市だったが、政府軍と反体制派による長期の対立により、壊滅的な被害を受けた。同機構はアレッポに2カ所の孤児院を建設するために200万円を目標に募金を集めており、2月末現在で100万円近くが集まった。岩村氏は「シリアの現状に目を背けず、支援の手助けをしてほしい」と呼び掛けている。問い合わせは同機構(電話:078・782・9697、ホームページ)まで。
募金先は下記の通り。
■ 郵便振替
口座:00900−8−58077 加入者名:一般社団法人神戸国際支縁機構
■ 銀行振込
三菱東京UFJ銀行 三宮支店(462) 普通3169863 神戸国際支縁機構 岩村義雄
※ 通信欄などに「シリア」と記入