米東部最大のゴスペル音楽イベント「マクドナルド・ゴスペルフェスト」(5月11、12日開催)に、今年も日本人で結成された「Don’t Give Up クワイヤー」の特別出演が決まった。ゴスペル界の大物セレブが一同に集まるこのフェストは、米エミー賞受賞プロデューサーのカーティス・ファローさんの呼び掛けにより、36年前にスタートした。スポンサーは、トライ・ステイト(Tri-State)と呼ばれるニューヨーク、ニュージャージー、コネチカットの3州にある約600店舗のマクドナルドのオーナーたち。収益は毎年、若者の大学進学をサポートする奨学金に充てられている。
現時点で決まっている今年のゲストは、グラミー賞受賞アーティストのシシー・ヒューストン、ヘゼカイヤ・ウォーカー、リアンドリア・ジョンソン、バショーン・ミッチェル、メルバ・ムーアら豪華メンバー。今後さらに、大物ゲストが参加表明する可能性もある。Don’t Give Up クワイヤーはその前座としてステージに登場する。出演は今年で9年目だ。
ゴスペル・フェストの観客はほとんどがアフリカ系米国人だが、その中で日本人が歌うことについて、呼び掛け人であるファローさんはどう思っているのか。ゴスペル・フェストで行われるコンテストのオーディション会場に伺い、話を聞いた。
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日本の皆さんがゴスペル好きだということは、私も最初は驚きました。ある調査によると、ゴスペル音楽が盛んな地域ランキングは、1位がニューヨーク、続いてシカゴ、デトロイト、ヒューストンと、米国内の都市が続きます。ブラック・ゴスペルは米国の音楽なので、当たり前と言えば当たり前ですが、驚くべきことにトップ10の中に海外の国名が入るのです。日本とドイツです。日本は6位だと聞きました。まさか海外でゴスペル音楽がこれほど人気だとは思いませんでした。ドイツはまだしも、日本のようにキリスト教に縁のない国で人気があるというのは驚きでした。
しかし数年前、日本の友人に招待されて「お茶会」に参加したことがあります。単に一緒にお茶を飲むだけの会だと思って行ったのですが(笑)、カルチャーショックを受けました。何かスピリチュアルな儀式のように感じたからです。私は日本の歴史や宗教などについて詳しくありませんが、私の魂に響きました。その不思議な体験は、私の頭から離れません。何とも説明のつかない感覚でした。それと同じように、日本人も良く分からないけど、魂にゴスペル音楽が響いたのではないかと思うのです。
日本には「いろいろな神様がいる」という信仰があると聞きました。私は、神様は1つだと考えていますから、そこは考え方が合わないと思われるでしょう。しかし、国や肌の色、言語の違いがあっても、同じ人間として、どうしても頭では理解できないスピリチュアルな感覚はあるのです。それは人間がつくったものではなく、生まれながらにして持っているものであり、神様から与えられたものです。
日本ではゴスペル音楽以外にも、R&Bやジャズなどのソウル系の音楽の人気が高いと聞きました。『ソウル(魂)』で感じることができるという点では、日本人はとてもスピリチュアルなものに敏感で、そういったものを感じやすい素直な心を持った人たちなのではないかと思うのです。Don’t Give Up クワイヤーのメンバーとして、ステージに立ったことがきっかけで、クリスチャンになった方や聖書を読み始めた方もいると聞きました。
政治や宗教、歴史などの問題で、国と国、人種と人種の間で垣根が作られています。しかし、垣根は人間が作ったものであり、音楽の世界にはそれがありません。日本から毎年、多くの方がゴスペル・フェストのために時間とお金をかけて来てくださり、そして素晴らしいステージを披露してくださっています。日本人による Don’t Give Up クワイヤーのステージは、私たち米国人にとって特別なものです。そして同時にこれは、私たちの間には垣根がないという証明になっていると思います。昨年のゴスペル・フェストは、今年のエミー賞にノミネートされました。私たちがゴスペル音楽を通して神様の下で1つになれていることは、会場だけでなく、テレビを通しても伝わっているのです。今年の Don’t Give Up クワイヤーのステージも待ち遠しく思っています。
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ゴスペル・フェストで行われるコンテスト(毎年1万人以上の応募がある)には、今年はソロ歌手部門で4人の在米日本人がファイナリストとして選ばれている。その1人である菊田ゆきのさんは、ニューヨークでゴスペルを歌っていくうちにクリスチャンとなり、現在は教会のクワイヤーや Don’t Give Up クワイヤーのメンバーとして歌っている。日本人がゴスペル音楽を通して聖書を学び始め、Jesus(イエス・キリスト)と出会っていくのは、とても自然な流れのように思う。日本のゴスペル音楽も一過性のものではなく、米国のように伝道ツールの1つとして定着していくのではないか。
今年の Don't Give Up クワイヤーの指揮は、名古屋芸術大学の非常勤講師で日本を代表するゴスペルシンガー&ディレクターの兼松弘子さん。日本全国から集まるクワイヤーメンバー、ミュージシャン、ダンサーらと共に、5月9日にニューヨーク入りする。翌10日には、ファローさんと共に米テレビ局FOX5の番組「Good Day New York」にも出演する予定だ。また、前回紹介したベテル・ゴスペル・アセンブリー教会(参考記事)の日曜礼拝でも賛美を予定している。ニューヨークはブラック・ゴスペルの中心地。ここに来れば、ゴスペル音楽が伝道に大きな役割を果たしていることを、目と耳でしっかりと確かめることができるはずだ。Don't Give Up クワイヤーのメンバーの募集は3月25日(日)まで。問い合わせは、同事務局([email protected])まで。
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