音楽を通して東日本大震災の復興支援を行っているJ-Symphonie(ジェー・サンフォニー)によるファミリーコンサートが26日、日本ナザレン教団尾山台教会(東京都世田谷区)で開催された。
フルートの北方奈津子(きたかた・なつこ)さんとギターの長佑樹(おさ・ゆうき)さんが結成したフルート&ギターデュオの名前の由来は、Jesus(ジーザス=キリスト)と一緒に響き合うSymphonie(サンフォニー=響き渡る)音楽によって神の愛を届けようということから。
2人は初のアメリカ演奏旅行から帰国したばかり。ロサンゼルスの教会を中心に回り、日本で起きた震災がどのようなものだったかを伝えて、多くの支援を得ることもできたという。
「ニュースを通してアメリカ人にも強いインパクトを残した3・11も、実際にどれほどのものであったのか、また現在の様子もあまり知られていない」と北方さん。ギターの長さんは、「私が洗礼を受けたのがロンドンの日本人教会だったこともあるので、今後も海外での支援演奏活動を続けていきたい」と思いを語った。
今回の演奏会場となった尾山台教会には、ギターの長さんが通っている。主任牧師の梅實淳一(うめざね・じゅんいち)氏は「温かく優しい先生」と幼稚園の保護者からも評判だ。子どもたちを笑顔で迎えていた。
尾山台教会は5年ほど前から地域に根ざした伝道活動を行うようになり、ジェー・サンフォニーによるファミリーコンサートは昨年9月に続いて2回目となる。前回は、隣接する幼稚園の児童と保護者を中心に200人近い参加者があった。
園児たちが保護者と共に会場へ入ってくると、明るい声が会場に響いて雰囲気が一気になごむ。冒頭に広田正晴(ひろた・まさはる)園長があいさつに立った。
「被災地に直接出向いて被災者を励ます2人のことを、私たちも支援したいと思います。尾山台ナザレン幼稚園は岩手県の認定こども園宮古ひかり(岩手キリスト教学園)を支援しています。心のダメージはまだまだ残っていますが、『忘れないでいるよ』と語り続けることが大事ですね」
ジェー・サンフォニーの2人が舞台に立つと、子どもたちも一生懸命に拍手をした。
1曲目はモーツァルトの「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」。本格的なプロの演奏に、保護者も子どもたちもじっと聴き入っていた。ファミリーコンサートだけあって、小さな子どもも楽しめるようにディズニーの曲や童謡も披露された。フルートの北方さんが「それでは皆で歌のお散歩をしましょう」と子どもたちに呼び掛け、「ぞうさん」や「おつかいありさん」を演奏すると、自然と子どもたちも歌い出す。北方さんは小学校で音楽講師も務めているため、子どもへの接し方に慣れており、とても分かりやすく曲を紹介した。
続いて北方さんと長さんは、スライドを使いながら、音楽を通じて被災者を励まし、支援を続けている様子について、「支援コンサート 東北の今」と題して紹介した。
「2年前に初めて東北へ行きました。その時はまだ164カ所に仮設住宅がありました」と北方さん。その頃テレビで映されていた映像は、見た目はよくなった場所ばかりだが、地元の人はこのように語ってくれたという。
「まわりからは『商店街ができてよかったね』『復興が進んだね』と言われますが、今はまだ心の穴がぽっかり空いたままのような気持ち」
本当の復興は、昔から住む人が「復興したな」と思える時なのだという。特に日本人は我慢強く、「皆が苦労しているから」とずっと耐えているため、かえってPTSD(心的外傷後ストレス障害)などの病気になって苦しむ人も多い。
最後に北方さんは力を込めて訴えた。
「東北の地震のことも、熊本や鳥取のことも思い出してください。被災者の方々は『忘れられていない』という実感が一番ほしいのです」
ジェー・サンフォニーが東北へ音楽支援に行くきっかけとなったチャリティーソング「花は咲く」を共に歌った。小さな子どもたちも1時間ほどの演奏を一生懸命聴き、最後に「となりのトトロ」と、アンコールで「さんぽ」が演奏されると、大喜びで一緒に歌う。
終わりのあいさつで広田園長は次のように述べた。
「このような大きな災害のことも、日々移り変わる他のニュースに押し流されて忘れがちになる。その中でも、忘れてはいけないニュースがある。これからも被災地のために祈り、『忘れないよ』とエールを送りたい」
終演後、子どもたちに聞くと、「とても楽しかった」「トトロがよかった」とかわいらしい感想を話してくれた。保護者からは、「地震のことはつい忘れがちですが、今日のコンサートでもう一度考えるきっかけになりました」、「1時間よく子どもが飽きずに聴いたなと思います。すごく楽しんでいました。勉強になりました」などの声が聞かれた。
ジェー・サンフォニーのこうした地道な音楽支援を通じて、支援と祈りの輪が広がっていくことを期待したい。