福音歌手の森祐理さんとフルート奏者のソン・ソルナムさんによる「常総水害復興支援コンサート」(水海道森下町内会、水海道橋本町内会主催、常総市、常総市教育委員会、日本国際飢餓対策機構他後援)が常総市立生涯学習センターホールで8日と9日に開催された。延べ300人以上が来場し、特に2日目はほぼ満席の状態となった。常総市長、副市長、常総市選出の県会議員、教育長、教育長代理も出席し、たいへん祝福されたコンサートとなった。
森祐理さんは、NHK教育テレビ「ゆかいなコンサート」の歌のお姉さんとして活躍した後、現在は福音歌手として多くの人に希望の歌を届けている。また、1995年の阪神淡路大震災では、当時22歳だった最愛の弟を亡くすという悲しい経験を持つ。
「生きている私たちは、やるべきことがあります。かけがえのない命を大切にしてくださいね。人は1人では生きていけません。誰かとの関わりが必要なのです」。そう被災者に寄り添うように語り掛け、「悲しみは悲しみで終わらない。常総が輝いて、希望の光となりますように」と励ました。そして、戦後間もなくヒットした「リンゴの唄」など、客席に降りて来場者にマイクを向けながら共に歌った。
森さんの優しい歌声と話に多くの来場者が涙した。歌を一緒に口ずさんでいた高齢の男性に話を聞くと、「森さんの歌を聞くと、元気が出るよね。すごく良かったです」とうれしそうに笑った。
森さんは去年6月に行われた常総水害復興支援コンサートにも出演しているが、実はその時、森さんはとても歌える状態ではなかったという。
「あの時は、すべての仕事をキャンセルして、病床の父と1週間付き切りでいました。でも父は、『おまえはよくやった』と言って、常総水害復興支援コンサートに私を送り出してくれたんです。行きの新幹線でたくさん泣きました。着いたホテルでも眠れなくて、朝の3時45分に母から電話で、『今、逝かはったよ。安らかだった』と。そのまま準備して舞台に立ちました」
この日も、その時に参加した地元の人が大勢来ていた。町内会の委員を務める女性は、「森さんの話は忘れられないです。本当に私たちのために来てくださったんです。だから、森さんみたいに助け合いたいと思っています」と目に涙を浮かべて語ってくれた。
森さんは言う。「またこの地に来ることができました。父は、苦しんでいる人や被災者に私が寄り添うことを願っていました。だから、わずかでもこの働き(歌)を継続できることはうれしいです。そんな思いで今日は来ました」。そして、「死で終わりではない」というキリストにある希望を、歌を通してさりげなく伝えたいとほほ笑んだ。
当日は公共性の高いイベントのため、ゴスペルや賛美歌ではなく、誰もが知っている歌や童謡が中心となったが、「歌は神様にささげれば、賛美になりますね」と森さん。
ソン・ソルナムさんは、韓流(はんりゅう)ドラマ「イ・サン」「ホジュン」「トンイ」のテーマ曲なども作曲した韓国のフルート奏者の第一人者。笑いあり涙ありのトークと、思わず息をのむような素晴らしいフルートと縦笛による演奏に、会場は感動に包まれた。
「私は、韓国のオンヌリ教会の故ハ・ヨンジョ牧師を通して、11年前に日本で行われたラブソナタに参加しました。ハ先生は日本をとても愛されていました。私もその愛情を感じました。
その後、東日本大震災があって、仙台から支援を求められました。韓国のメーカーやアシアナ航空と協力して、下着、ジャンパー、靴下を津波発生から6日目に届けることができたのです。
石巻は本当に悲惨な状況でした。福島、郡山、さまざまな場所を回りながら奉仕をしました。その間、70回の慰問公演を行っています。この体験を通じて、『日本に来よう』と決心しました。今日の常総水害復興コンサートも同じ気持ちで来ています。私の演奏を聞いて、思いを聞かせてくれた人々の声が今も聞こえてきそうです。
両親も家もなくした1人の女子学生のことを覚えています。彼女は自殺しようと思っていたそうです。でも、避難所での慰問コンサートに来て神様の愛を知り、教会へ通い、クリスチャンになりました。仙台で再会できました。証しの手紙をくれました。このような神様のストーリーは被災地でたくさんあるのです」
同コンサートの主催者である水海道橋本町区長の古矢邦夫さんの自宅周辺も大きな被害を受けた。しかし、キリスト教精神を持って災害支援に取り組む日本国際飢餓対策機構やボランティアたちが大きな助けとなったという。
「日本国際飢餓対策機構さんが支援に来てくれたことは本当にありがたかったです。皆さんには本当によくやっていただきました。ただ、復興が進んだという実感はまだありません。長く住んでいる人はまだいいが、借地住まいの人や若い世代の人が水害後ここを離れていきました。やっと建て替えも始まり、方向性は見えつつあります。1年目は何もできませんでしたから。鬼怒川(きぬがわ)の決壊で、子どもの背丈ほど水没した場所も商店街の中には多くありました。今は1軒しか店を開けていません。頑張ってきたけれど、水害が引き金で店をたたんでしまったのです」
このように現実の復興にはまださまざまな課題が残されている。しかし、今回のコンサートを地元主体で開催したように、地元の人たちが一丸となって「がんばっぺ常総」と、目で見える復興と心のケアを目指していることが大切なのだ。
また今回のコンサートでは、水害復興で外部支援団体のまとめ役だった認定NPOコモンズの協力とともに、影ながら尽力した2人のクリスチャンの存在があった。1人は単立独立水海道キリスト教会牧師の岡本壽美江さん。教会は床下浸水の被害を受け、自身も3日間ほど外出できない状態だったという。昨年からこのコンサートのことを祈りに覚え、また2日間ともに最前列でずっと祈っていた。もう1人は「常総復興を支える会」会長の大上仁さん。森さんとソルナムさんのコラボコンサートに企画の段階から関わり、地元の人脈を生かしてスポンサーや舞台運営ボランティアの確保に協力した。
2日目のコンサートの終わりに古矢さんがあいさつで「また常総に来ていただきたい」と言うと、森さんが「2度あることは3度あります」と笑顔で答えた。
コンサートの間、外は雨模様だったが、終演直後には雲が切れて晴れ間がのぞいた。「もし晴れたら、桜の咲く場所で写真が撮りたいですね」との森さんの希望に、神様が答えてくださったのだ。いまだ道半ばの常総水害の被災地のことを忘れることなく、皆で助け合っていきたい。