山形国際ドキュメンタリー映画祭やカンヌ国際映画祭をはじめ、世界各国の映画祭で上映され、本国ルーマニアではアカデミー賞・最優秀ドキュメンタリー映画賞を受賞した「トトとふたりの姉」が、29日(土)からポレポレ東中野でロードショー公開される。悲惨な境遇に生まれついてもなお、未来を切り開いていこうとする子どもたちの姿に世界中の観客が引き込まれ、その成長していく姿に希望の拍手がわき起こった。
映画の舞台はルーマニアの首都ブカレスト郊外。父親はおらず、母親も麻薬売買の罪で服役中のため、アナ(17)とアンドレア(14)とトト(10)はきょうだいだけでボロアパートに暮らしている。ルーマニア生まれのドイツ人であるアレクサンダー・ナナウ監督は、そんな彼らの姿を14カ月にわたり撮り続けた。
きょうだいの住む部屋は近所の不良たちのたまり場となり、暴力やドラッグが生活の一部となったような環境の中、トトと姉たちも同様の人生を歩むべく決められてしまったかのように見える。しかし、カメラを子どもたちの視線に合わせて回し続けていく中で、やがて奇跡のような出来事が起きる。それはフィクションではなく、現実に起こったことであり、観客はその証人となる。
アナとアンドレアとトトは、同じ境遇に育ちながらも、それぞれが個性的であり、次はどうなるのかと見ている間ずっとハラハラさせられる。たぶんそれは、見る側が3人に感情移入し、共にその時間を過ごしているからだろう。監督はこのことを狙って「観察型ドキュメント」の手法で撮ったという。
特にその手法が成功しているのは、アンドレアの成長過程だ。初めアンドレアは、現実の生活から逃げるかのように友達の家を泊まり歩いていたが、アナが逮捕された後は少しずつ変わっていく。映画では見事なまでにその変化していく様子を捉えており、その意味でこの作品はアンドレアの成長物語と言っても過言ではないだろう。そして、彼女の姿を通して、「何かを始めたい」という希望や、「人に頼られている」という責任感が人を変える大切な要素であることを教えられる。
アンドレアがトトと一緒に孤児院に入ることを決意するシーン。じっと耐える14歳の少女の姿に「つらいよね」と誰もが声を掛けたくなるだろう。しかし、その重大な決意を経てアンドレアは、映画の冒頭とは別人のように輝き出し、どんどんチャーミングになっていく。見る側は、自分たちが見守る中でアンドレアが成長したかのような錯覚に陥り、つい自分の中で励ましの言葉を探してしまう。
「このドキュメンタリー映画は、彼らについての映画というだけでなく、彼らと共に作った映画だ」とナナウ監督が述べているように、同作品では、アンドレアが映画のために監督から預かったハンディカムで自分の生活を記録している動画も含まれる。
また監督はこのようにも語っている。「子どもたちにとって境遇は、能力や向上心と何ら関係ない。子どもたちが将来の夢や想像力を育む上で鍵となるのは、むしろどのような大人を模範とし、どのような生活を送るかだ」。確かに、それまで暴力とドラッグに染まった大人しか見てこなかったアンドレアは、撮影中にさまざまな大人に出会い、どういうことを感じただろうか。
「両手を上げて命乞いをせよ、あなたの幼子らのために。彼らはどの街角でも飢えに衰えてゆく」(哀歌2:19)。現代の大人は子どもたちのために自分の命を捨てて命乞いをする愛を持っているだろうか。大人によって過酷な状況に追いやられているトトたちがいることを忘れてはいけないと思わせる、必見のドキュメンタリー映画だ。
2017年4月29日(土)より東京・ポレポレ東中野でロードショー、ほか全国順次公開。
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■ 映画「トトとふたりの姉」予告編