2月26日(現地時間)、米ロサンゼルスのドルビー・シアターで第89回アカデミー賞の授賞式が行われた。作品賞発表時に誤って違う作品名が呼ばれるなど、いろいろと話題を呼んだ。
一方、日本で大きく報道されることはなかったが、短編ドキュメンタリー映画賞には、シリアの民間防衛隊ホワイト・ヘルメットを描いた作品が選ばれた。授賞式で同作の監督はシリアの平和を訴えた。また、そこに出席予定だったホワイト・ヘルメット隊員が、ビザを所持しながらも入国を拒否されたとAFP通信は伝えている。
ホワイト・ヘルメットは、シリアで殺害された日本人ジャーナリストの後藤健二さんが生前、取材を重ねていた。受賞を知ったシリア人ジャーナリストたちは、SNSなどを通して後藤さんをタグ付けするなどして、彼の功績もたたえた。
後藤さんとも親交のあったシリア人ジャーナリストの1人、カナダ・モントリオール在住のモハメド・マームッドさんにメールインタビューをした。
マームッドさんによると、ホワイト・ヘルメットは、シリア内戦下でボランティアとして活動する民間救助隊のこと。2011年の内戦勃発以来、すでに約9万人の救助活動を行い、人々の命を救ってきた。15年9月以降のシリアは、ロシア軍の介入により、内戦はさらに激化。史上空前の事態に追い込まれている。ホワイト・ヘルメットのメンバーは約1200人。しかし、ロシア軍も含むアサド政府軍の空爆により、すでに183人の隊員が命を落としている。
「『ホワイト・ヘルメット』は昨秋、ノーベル平和賞にもノミネートされていた。彼らは、命を懸けた救援活動に対してノーベル賞を望んでいたが、それはかなわなかった。今回、栄誉ある賞を私たちの仲間に与えられたことをとてもうれしく思っている」とマームッドさんは言う。
また、後藤さんがホワイト・ヘルメットのドキュメンタリーを作っていたことにも触れた。彼が取材していたのは隊員の日常。朝食を食べたり友人と会話をしたりというありふれた日常の中で、ひとたび爆弾が投下されると、現場に直行する若い隊員の様子などを撮影していたという。マームッドさんは、「健二がアレッポで撮影したものは、ホワイト・ヘルメットのドキュメンタリーの中でも最も有名なものの1つだ。このシリーズには続きがあるはずだが、彼の友人がその続きを作ってくれることを望んでいる」と話す。
後藤さんの殺害事件からすでに2年が経過したが、シリア情勢は変化しているのだろうか。マームッドさんは次のように答える。
「シリアは変わってしまった。健二を殺害したグループは、すでに戦闘に敗北している。彼らはテロリストであり、戦闘こそが唯一の解決策だと考えている人々だ。私たちが食糧を分かち合い、喜び、涙、恐怖でさえも分かち合った街、アレッポは大きく姿を変えてしまった」
受賞女優のファッションや受賞者一人一人の政治的発言などが大きく報道される一方、入国できなかった受賞者もいた。その原因はどこにあるのか。神が示す国際社会の在り方とはどのようなものなのか。華やかなアカデミー賞授賞式の陰で命を懸けて地域を守る彼らのために祈りたい。
公式ホームページではダイジェスト版(英語)を見ることができる。