薬物・アルコール・ギャンブル依存症者の更生と社会復帰をキリスト教精神で支援する「ティーンチャレンジ」。この働きは、1958年、米国ニューヨーク、タイムズ・スクエア教会のデイヴィッド・ウィルカーソン牧師によって始められた。その経緯はパット・ブーン主演の映画「十字架と飛び出しナイフ」(ライフ・エンターテイメント)でも広く知られている。
現在では世界各国に千を越えるセンターが建てられているが、日本には木崎智之牧師によってこの働きが伝えられた。木崎牧師は英国留学中にティーンチャレンジの活動に加わり、帰国してから2005年にティーンチャレンジ・ジャパンを設立。その後、2007年に沖縄センター、2013年には岡山センターがオープンした。
世界各国のティーンチャレンジでは、ウィルカーソン牧師がこの働きを始めた2月9日を記念して、「全ての依存者に希望を!」と断食祈祷を行う。日本にある2つのセンターでも祈りをささげ、11日には、沖縄センターと岡山センターをフェイスタイムでつなぎ、互いの顔を見ながら賛美と祈りの時を持った。
現在、岡山センターでは、2人の生徒と、昨年同センターを卒業したインターンの男性が共同生活を送っている。岡山駅から車で約20分。豊かな自然に囲まれた同センターでは、リハビリと就労支援を目的に農作物を育てている。早朝から農作業を行い、自分たちで朝ごはんを作って食べ、日中は聖書の勉強、賛美、そして祈りの他、部屋の掃除や教会の奉仕も行う。コテージ風の建物の中では、「キリスト漬け」と生徒が言うように、クリスチャンとしての規則正しい生活が送られている。初めこそ、草取りなどの地道な作業に嫌気が差す生徒もいるが、朝から晩まで体を動かす環境は、依存症から抜け出すのにはうってつけだ。
インターンとして働いている橋本従道(つぐみち)さん(23)も、数カ月前までは生徒として同センターで訓練を受けていた。ギャンブル依存症だったという。
橋本さんはクリスチャンホームで育ち、幼い時から両親と共に教会に通っていた。年を重ねるごとに教会学校のメンバーが減ることに戸惑いはあったものの、高校を卒業する18歳まで、集会にも積極的に参加し、教会の奉仕も行っていた。「僕、かなりいい子だったと思いますよ」と橋本さんは笑う。
大学時代、少しの自由とお金を得た橋本さんは、本人の言葉を借りれば「度を越して」遊び過ぎていた。親の目の届かない場所で、友人に誘われるまま、パチンコ、麻雀、タバコ、酒など、大学生がやりそうな遊びを覚えた。「このくらいなら大丈夫」と思いながら、徐々に深みにはまっていった。
当然、アルバイト代だけで足りるはずもなく、20歳になると消費者金融のカードを作った。それも瞬く間に限度額いっぱいになり、督促の電話やハガキに追われるように。それでも、家のものを売ってお金を作り、奨学金も全てギャンブルに使った。そして大学3年で中途退学する。
「3日間くらい寝ないでギャンブルをしていることもありました」。友人や知人にお金を借りることもあったが、当然返すあてはなかった。徐々に友人が離れていくのも感じていたという。
「ギャンブルをやめられないというのは、いつか大金を当てて借金をなくしてやろうと思うからですか」と尋ねると、「それはないですね。勝っても負けてもよかったと思います。クセというか、習慣のようなもの」との答え。
そのような生活が続き、ついに橋本さんは精神的に追い詰められていった。「こんなことをやっていてもいいわけがない・・・」。頭では分かっているのに、やめられない。泣きながらパチンコをしていることもあった。
ある日、両親からもらったお金で再びパチンコ屋へ。台に向かって玉を打っているときに、「やっぱりダメだ」とようやく観念した。
借金を重ねる息子に対して「神様からは絶対逃げられないんだよ」と愛をもって叱る母親と、それでもやめない息子。その頃には親子関係にも大きな亀裂が入っていた。
やがて母教会の牧師に勧められ、ティーンチャレンジの門を叩いた。しかし、ここから橋本さんの新たな葛藤は始まった。同センターの基本は、聖書、祈り、賛美・・・。
「僕が18年間、教会でやってきたことと同じだ! こんなもので僕の依存症が治るわけがない。僕は教会にも行った。賛美もした。毎日祈った。それなのに依存症になって苦しい思いをしたんだ」。入所して1週間後には木崎牧師に、「僕、ここのセンターをやめます。こんなことやっても治らないと思います」と話したという。
すると木崎牧師をはじめインターンの先輩たちに、「3カ月だけ頑張ってみろ。3カ月やっても治らなかったら、その時また考えればいい」と言われた。その頃の橋本さんは、教会もクリスチャンも聖書も大嫌いだった。全てがきれいごとにしか思えなかった。
ところが、入所して1カ月後、聖書を読んでいるときに、「僕、戻るべき場所に戻ってきたのかもしれない。神様は僕を待っていてくれたんだ」と気付いた。それからは農作業もだんだん楽しくなってきた。きれいな畑を見ていると気持ちがスッキリするという。昨年は試験的にジャガイモを植え、収穫の時には皆で掘り起こし、料理して食べた。
「おいしかったです。とても感動しました」。間もなく種を植える時期に入る。「今年は夏野菜も植えるんですよ」と橋本さんは目を輝かせる。
「神様と両親には感謝しています。僕が自分を見失っているときは、暴れたことも、刃物を向けようと思ったこともあります。そんな中でも、きっと両親は祈ってくれていました。あの時は気付かなかったけれど、両親に愛されていたのだと今は思うことができます」
「よく頑張りましたね」と声を掛けると、「いやいや、僕はたくさんの方に祈ってもらっていましたから。きっと教会でも祈ってくれていたのだと思います。祈られている数が違うだけですよ」とほほ笑んだ。
「今、依存症から抜けられなくて苦しんでいる方に僕から言えるのは、『もっと楽しいことをしようぜ!』ということ。心を病むほどにやる遊びは全く面白くないでしょう」
ティーンチャレンジでは、献金、献品も受け付けている。詳しくはホームページ。