連日報道される薬物依存のニュースに、「結局、更生できないのか」と絶望感を抱く人も多いだろう。ASKA容疑者も初犯時の報道後は、「きっと何か魔が差したに違いない」「きっと更生して、昔のように、素敵な音楽を私たちに聞かせてくれろうだろう」と期待するファンも多かった。
しかし、先日、再犯容疑のニュースが伝わると、更生を絶望視する意見も多く聞かれるようになった。
こうした報道が社会にまん延する一方で、今も「もう薬漬けの生活から抜けたいのに、抜けられない」ともがく依存症当事者も多くいるのではないかと推測する。彼らには、もう更生の道はないのか。
聖書を基盤にした依存症更生施設ティーンチャレンジ・インターナショナル・ジャパン(以下、ティーンチャレンジ)の木崎智之牧師に話を聞いた。
ティーンチャレンジは、依存症に苦しむ若者を更生させる施設として、11年前に設立された。「更生率86パーセント」という驚異的な数字は、「神の御業以外、考えようがない」と木崎牧師は言う。
多くの依存者から相談の電話を受ける中で、「ここ数年、また依存者の数が増えてきているように思う」と話す。理由として考えられるのは、10年ほど前からニュースでも取沙汰されていた「脱法ハーブ」「合法薬物」が世間で騒がれた頃、多くの若者が「合法」「ハーブ」という言葉に踊らされ、それらに手を出し始めた。ここ数年、警察の取り締まりが厳しくなり、表立っての売買はなくなったものの、そこから覚せい剤、大麻への道は意外と近く、「その時期から急増したように感じている」と話す。
薬物に手を出す年齢はさらに低年齢化し、木崎牧師のもとを訪れる若者の中にも「中学生の頃から(薬物を)やっている」と話す人もいるという。こうした背景には、「環境」も大きな問題の1つと木崎牧師は指摘する。暴力団が多い地域で父親、母親が薬物を持っている、または使用していると、おのずと子どももそれを目にする。中学生くらいになり、好奇心が高まれば、使用してみたくなるのは自然の成り行きなのかもしれない。
「30代後半から40代の人々は、米国などへ留学の経験がある人もいるでしょう。マリファナが一部の地域では合法化されており、留学先で覚えてくる人もいました。帰国して使用したら、それは罪に問われますから。また、マリファナから覚せい剤に移行する人もいます」と木崎牧師は話す。
一度薬物を手にした人は、徐々に常習化するようになり、いずれ抜け出したくても抜け出せなくなる悪のスパイラルへと陥る。
しかし、「更生の道は必ずある」と木崎牧師は話す。
ティーンチャレンジでは、入所の前に必ず面接を行う。本人、保護者ともに本気で更生を考えているかを確認し、保護者には「薬物を断ち切るまで、家には入れない覚悟を」と話す。
入所すると所持品検査を行い、インターネット、お金などは一時預かりとなる。単独での外出も基本的には認められない。徹底的な生活改善と朝から晩まで聖書漬けの日々が始まる。訪れる中毒者のほとんどがノンクリスチャンだというが、卒業する頃には、薬物を絶って、信仰を持って社会に復帰しているという。
「最初の3カ月が肝心」と木崎牧師は言う。最初の3カ月でギブアップして家に帰る人は、たいていの場合、「帰れば、実家に入れてくれる」という甘さがあるという。「依存者の多くは、『楽な方、楽な方』に逃げようとしているのです。ティーンチャレンジより実家の方が楽だから、実家に帰ろうとする。薬物をやらない選択より、やった方が楽だから、いけないと分かっていても薬物を使用する。ティーンチャレンジにいた方がまだ楽・・・といった状況を作ればよいのです。ティーンチャレンジに残るか、ホームレスになるか・・・どっちが楽かといったら、残る方が楽でしょう」と話す。
こうして、最初の3カ月を乗り切り、その後も1年をめどにセンターに残り、翌1年をインターンとして、新たに入所して来る依存者たちをフォローする。
インターンも終了し、地元に帰っても、木崎牧師や他のスタッフがたびたび会いに行っては、様子を見ているという。「ティーンチャレンジが他の施設と違うのは、この点かもしれませんね。結局、依存者の中には、孤独な人もいるのです。ですから、人とつながることによって励まされ、社会復帰するといった人も多くいます。卒業生の中には、立派に社会に出て、すでに結婚をした人もいます。そういった瞬間に立ち会えるのは、感謝なことです」と話した。
現在、ティーンチャレンジでは、沖縄と岡山にセンターを構えているが、重度の薬物依存者については今後、沖縄センターで受け入れる。現在は移行期間中だが、来月末には準備が整う予定だ。詳しくはホームページ。