多くの元受刑者を教会で受け入れ、更生まで伴走する刑務所伝道ミニストリーを11年間続けてきた進藤龍也牧師(罪人の友・主イエスキリスト教会)。自身も前科7犯、3回の受刑歴がある。指定暴力団の組合員となり、薬物にも溺れた経験を持つ。
3度目の服役中に、キリストに出会った。出所後は、暴力団をクビになり、当時、結婚していた妻には愛想をつかされ、獄中で離婚。実家にいる母の元へ戻った。
「母ちゃん、今までの親不孝をお許しください」と、一番嫌いだったという土下座をして謝ったという。
11年前に始めた開拓伝道は、初めこそ、教会員は飼い犬の「忠太郎」だけだったが、進藤牧師と同じような境遇の元受刑者たちが次々と教会へやって来るようになった。支援者、賛同者も次第に増え、全国から講演の依頼が舞い込むようになった。
出所して身寄りのない人は、教会で寝泊まりをさせ、ともに食事をし、銭湯へ行き、背中を流し合う。決して順風満帆な時期ばかりではないが、「罪を赦(ゆる)された喜び」を誰よりも知る進藤牧師に迷いはない。
一方、五十嵐弘志氏もまた元受刑者。「覚せい剤と殺人以外、何でもやった」と話し、受刑歴は3回で約20年にも及ぶ「長期受刑者」だ。2年前、刑期を満了した満期出所者らへの支援を行うNPO法人「マザーハウス」を立ち上げた。
現在は、全国の刑務所にいる受刑者約700人以上と交流し、220人のボランティアらの手によって返事を書く「ラブレタープロジェクト」を中心に、出所してきた元受刑者には、社会復帰までの道のりを物心両面から支援している。教会に集い、熱心に祈る元受刑者もいるという。
五十嵐氏自身は、3回目の受刑中にキリストと出会い、進藤牧師とも文通を始めた。進藤牧師も、五十嵐氏が獄中から送った手紙の内容を覚えているといい、「聖書の御言葉なんかを書いてきたり、『僕も出所したら、キリストの愛を伝える者になりたい』なんて書いていました。こうして、立派になったのを見るとうれしいですね」と話す。
進藤牧師によると、2006年、全国の刑務所に収容されている受刑者の数が8万1255人に上り、過去最高となった。この年を境に減少傾向にあり、一昨年のデータでは6万486人だったという。刑期満了などで出所しても、行き先も就職先もなく、帰る家もない者は再犯を繰り返し、その数は府中刑務所で平均6・5回にも及ぶ。
元受刑者の更生に奔走する進藤牧師と五十嵐氏、2人の対談を取材した。
まずは、私たちが普段目にすることのない刑務所の実態について、知っている範囲でお話しいただけますか?
五十嵐 そうですね・・・端的に言うと、刑務所は犯罪者の養成所ですね。そこで、いろいろな犯罪者と話をして、自分の罪と向き合うということはまれですね。
進藤 日本の刑務所は、「自由」はないけど「安全」がある。けんかなんか始まれば、誰かがすぐに止めに来るし、何より衛生的。食事だってちゃんと出る。暴動はほとんどない。僕らヤクザが刑務所に入ると、「おい、お前、ヤクザなら、ヤクザらしく勤めろよ」と刑務官に言われ、「はい」と返事をする。ヤクザに刑務所を治めさせ、うまく飼いならす。だから、「更生」というより、「ヤクザ」は「ヤクザ」のまま入って、また元の世界に帰っていくといった感じですね。地元のヤクザには刑務官も甘いしね。
五十嵐 刑務所にある工場なんかも、ヤクザが仕切っていましたね。そうすれば、みんな従いますから。府中刑務所には、「サムライ工場」と呼ばれるヤクザ関係者だけが働く場所がありましたね。進藤先生はどちらの刑務所で服役されたんですか?
進藤 僕は、松本、松江、秋田だね。
五十嵐 あっ、わりと楽な所ですね(笑)。
進藤 刑務所も、大型刑務所はどうしても規律を緩めるわけにいかないから、きついよね。僕のいた所は、田舎で小さい所が多かったかな。
五十嵐 僕は、初犯で静岡、次が府中、最後が岐阜でしたね。長期の再犯で行った岐阜刑務所が一番厳しかったですね。やはり、何度も繰り返す犯罪者には厳しくなるのは当たり前ですよね。
進藤 刑務所もおそらく再犯防止のために取り組んではいると思いますよ。ただ、やはり予算がない、人がいない・・・といった状況の中で、刑務官も苦戦しているといったところが本音なのかなと思いますよ。一昔前の話になるけど、職業訓練だって、100人の受刑者がいても、その中の3人しか受けることができなかった。ヤクザが当然、受けられないか後回しですね。
刑務所で更生するというのは、かなり険しい道のりなんですね。
五十嵐 刑務所の中で、誰と出会うか・・・でしょうね。僕の場合は、獄中でキリストと出会った。自分の罪に気付き、悔い改めた。多くの受刑者が、この「罪」に気付かないまま、刑期を終えてしまう。僕は、人間、誰でも自分の罪に気付いて、自分が犯した罪と向き合い、悔い改めれば、更生はできると思います。
進藤 僕のところに手紙をよこす受刑者の中で、「本気で変わりたい」と思ってるやつもいるけど、「どうしていいか、分からない」って迷っているやつも一定数いる。「時間つぶし」みたいなやつはほとんどいないね。でも、根底にあるのは、みんな「出所した後、行き先がない」っていうことだね。孤独なんですよ。うちは、やっぱり元ヤクザの人間が多いかな。昔の仲間もいるしね。諦めないで伝道しなきゃと思って、根気強く続けてますよ。
五十嵐 みんな孤独ですね。文通は励みになっていると思いますよ。
進藤 ただ、気を付けなきゃいけないのが、受刑者の中には、「医者にかからなきゃいけない」とか、中には「聖書を読むのにメガネがないと読めないからメガネを買いたい」などの理由で、お金を要求してくる人がいる。これは、絶対応じてはいけませんね。それから、年が近い人は、恋愛は要注意ですね。肉筆の手紙って、人の心を盗みますからね。
五十嵐 文通に関していえば、マザーハウスでは、「ラブレタープロジェクト」というのがあって、受刑者とボランティアの人とマザーハウスの住所を通して文通をしてもらうのですが、双方に金銭、物品の授受はしないことなどを決めた「同意書」のようなものにサインをしてもらうことになっているんですよ。これは厳しくしています。中には、「~を送ってくれ」と平気で言ってくる受刑者もいますからね。「キリストの愛を利用するな。キリストの愛を実践しろ!」といつも言ってるんですけどね。ボランティアの方々には、「受刑者とともにいるキリストに手紙を書くつもりで、真心を込めて書いてほしい。その手紙で、人は変わると思います」と話しています。
進藤 やっぱり、読んでいると、長期受刑者の方が「本気」を感じますね。「今度こそ変わりたい」っていうね。短期受刑者は、「出所したら、必ず先生のところに行きます!」なんて書いてきても、ほとんどのやつは来ない。僕は、「身元引受人」には、ほとんどの場合ならない。刑期を満了して、自分の足で教会まで来たやつには、本気でやり直す思いがあれば、とことん付き合う。
五十嵐 僕のところに手紙をよこすのは、長期受刑者が多いんですよね。長期受刑者は、後がないから、「更生」に対する思いが違うかなと思いますね。それでも文通をしていて、地元に帰った人間に関していえば、また元の道に戻ってしまう人がほとんどですね。マザーハウスに関わって、共に教会に行って・・・という人の中には、今までで7人、洗礼まで導かれましたね。本当にうれしい瞬間ですね。マザーハウスでは、今まで、「身元引受人」になった人が3人いましたね。彼らは、1年の期限付きで生活保護を受けて、マザーハウスが借りている部屋に住まわせ、社会復帰をしました。
進藤 教誨師(きょうかいし)も全国の刑務所で足りてないんですよね。教誨を受けたくても、牧師がいない。それは、キリスト教に限ったことではなくて、牧師を1人増やせば、他の宗教の聖職者も増やさなきゃいけない。
五十嵐 個人教誨を受けたい受刑者もいるのに、待ってる状態ですよね。
進藤 文通をしていて、感動したことがありましたね。それはね、ある無期刑の受刑者がいたんですよ。同室に足の悪い長期受刑者がいた。この無期刑の受刑者が僕のところに手紙をよこして、しばらく文通しているんですけどね。その足の悪い受刑者が出所してきて、僕のところに電話をくれたんですよ。「あいつは、進藤先生と文通を始めて、変わった。私の布団の上げ下ろしを毎日やってくれたんですよ。無期だから、あいつは出てくることはできないけど、それだけ先生に伝えたくて電話しました」と言ってくれたときには感動しましたね。
11年間刑務所伝道に関わっていて、刑務所から出てきて受洗した数はどのくらいですか?
進藤 出所してここに来るのは、年間だいたい7人くらい。その中で、洗礼まで導かれるのは、どうだろう・・・年に1人くらいかな。11年間で15人には届かないくらい。受洗しなかったけど、再犯もしていないって人はもちろんいるよ。でも、僕にとっては、受洗して、更生して、教会につながり続けて・・・までで100点だと思ってる。ただ、途中で教会を離れちゃったりする人もいるからね。(続きはこちら>>)