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私たちは食料品を集め、必要のある方々にお配りする「フードバンク」団体です
2011年3月11日に発生した東日本大震災を受けて、すぐに発足した復興支援団体「ホープみやぎ」(代表・大友幸証=ゆきまさ=牧師)。同団体は、被災地の真ん中に位置する塩釜聖書バプテスト教会(保守バプテスト同盟、大友幸一牧師)を拠点として始まった。世界中から参加したボランティアと共に、津波の被害を受けた家屋の清掃活動、物資配布、炊き出しを行ってきた。宮城県の多賀城市、東松島市、仙台市若葉区、宮城野区、亘理町、南三陸町を中心に活動している。
多くの仮設住宅が閉鎖され、被災者支援終了後の新たな活動のために、2014年にフードバンクを中心としてNPO法人を組織した。それが「いのちのパン」だ。
フードバンクとは、食べられるにもかかわらず、何らかの理由で廃棄される食料品を企業、農家、地域の協力で分けてもらい、食べ物がなくて困っている生活困窮者、支援を必要とする世帯に届ける活動。全国的に普及しつつある取り組みだ。
「いのちのパン」では、生活困窮者、独居高齢者、福祉施設を中心に、災害後の支援活動の一環として取り組んでいる。キリスト教精神に基づく明確なビジョンを持って行われており、行政や地域での信望も厚い。
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「いのちのパン」は、「となりびとに愛の手を」(キリスト教の隣人愛の精神)を理念に、台湾のキリスト教災害支援団体「中華基督教救助協会」と米国の宣教団体「SEND国際宣教団」の支援を受けて発足した。
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塩釜聖書バプテスト教会の仙台若林東地区を開拓伝道する「家の教会」でリーダーを務め、「いのちのパン」で副理事長を務める大友恒雄(つねお)さんと妻のまり子さん、協力宣教師として活動に関わっているリン・ティナ宣教師の1日の活動に同行させてもらった。コストコから大量のパンが提供され、2台の車に積み込んで高速道路を使い、仙台東地区に向かった。
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手際よく黙々と支度を進める。支援物資は津波の被害を受けた被災者を中心に届けられる。震災から5年が過ぎ、今年の4月に仮設住宅は完全に閉鎖された。被災状況や収入に応じて、国からの保証も異なるという。仮設住宅から復興公営住宅や家々に散らばった元・住人たちを「いのちのパン」は戸別訪問して「人と人のつながり」を継続しているのだ。
大友さんと松本さん(「家の教会」のメンバー)は、2人で協力しながら一軒一軒、配布先の家を訪問する。チャイムを押すと玄関が開き、住民が出てくる。「こんにちは。お変わりありませんか?」。ちょっとした一言が、実はとても大事だと大友さんは語る。
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大友さんも同じ被災者だ。かつては仙台市井土浜地区で暮らしていた。震災で命からがら、地域住民を助けながら避難した経験を持つ。あまりに悲しい惨状を多く見てきた1人だ。「102世帯の中、38人が津波で亡くなりました」と語る。
大友さんは「この地域に伝道をしたかったが、津波のあった場所に皆戻ってくるだろうか」と語る。現在、国の災害復興支援で新しい住居を構え、「家の教会」として自宅を開放している。旧・自宅は、津波でほとんど壊れてしまったのだ。
自身も被災者でありながら、震災直後は避難所を回り、知人や教会員の安否確認に尽力した。「隣人愛が全ての動機」と温かな笑顔で語る。
家族を亡くした人、当時の惨状で心の傷が癒えない人、そのような中で生活苦にある家族。被災者は皆、それぞれの課題、悩みと向き合っている。見た目は復興が進み、震災直後の面影はほとんど見られなくなった。この溝を埋めるのも「いのちのパン」の働きの1つだ。
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80代の男性を訪問した。大友さんから、「この方は、3・11の津波で奥さんが目の前で流されてしまいました。自宅は海岸から3キロも離れた場所でしたが、1メートル以上の津波が襲いました」と説明を受けた。
パンを配りに行く前に、必ず電話で確認してから届けに行くが、不在だった場合はメモを添えて所定の場所に置いてくる。「配る時間帯もポイントですね」。試行錯誤しながら行っているという。「継続することの大切さ」を感じた。
受け取った人が本当にうれしそうにする姿を見て感動を覚えた。「イベントのチラシを渡しています」。大友さんは教会の布教活動は行わない。地域の方の「いのち」をつなぐために、喜んでいただけることを紹介していくのだ。今も続く被災地の地道な活動に、私たちはどう向き合っていけばよいのだろうか。関心を持ち続けたい。
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大友幸証牧師のインタビュー
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大友幸証さんは、塩釜聖書バプテスト教会で副牧師を務め、「ホープみやぎ」代表、そして「いのちのパン」副理事長を兼任する。広い視野と豊富な経験を生かし、次世代のキリスト教界をリードする。災害後の地域、日本伝道に強い使命を持つ牧師だ。主任牧師の幸一さんの息子に当たる。
大友さんは、「『いのちのパン』は、行政の手が届かないところをつなぐ活動です。おのおのが教会にしっかりと根差して行っています。被災者は震災から5年が過ぎて国から借りているお金を返さないといけないという現実と不安を突き付けられています。それでも、皆さんはつらい事を笑いながら隠すのです。塩釜市役所と連携が進み、行政とはより良い協力を続け、今後は企業からの食料の提供、サポートも拡大していきたいです」とさらなる支援の必要性を語った。
東日本大震災は多くの人に悲しみ、苦しみ、傷を残した。いまだ癒えることのない人々の声とは裏腹に、表面上の復興は進み、被災者は「心が追い付かない」葛藤と戦う。教会から始まった「隣人愛」の実践がフードバンクという形となって、教会が地域に仕えることで、多くの人に本当の希望と愛を伝えていくことができるのだ。私たちの理解と関心、現場への支援は欠かせない。
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(注:プライバシー保護の観点から、取材した被災者の氏名、住所は掲載しません。撮影許可は頂いています)
■ 取材協力
塩釜聖書バプテスト教会(大友幸一牧師)
大友幸証牧師、大友恒雄さん、まり子さん、松本さんご夫妻、「家の教会」のメンバーの皆さん、センド国際宣教団リン・ティナ宣教師、被災地の住民の皆さん。
■ フードバンクNPO法人「いのちのパン」ホームページ
フードバンク活動に協力する企業、団体、個人を募集している。