「明日の食を考えるフードセーフティーネットフォーラム」が10月27日、日本キリスト教会柏木教会(東京都新宿区)で開催された。「食の支援を始めるにはどうしたらよいか?」をテーマに、民間、行政、宗教など各方面で食の支援に取り組む団体が活動を報告。食の支援にとって何が必要かを、参加者約50人と共に考えた。
今回で第2回となる同フォーラムは、昨年第1回が行われた築地本願寺(東京都中央区)から、月に一度、食料支援が必要な人々に食品を配る場(パントリー)として場所を提供している柏木教会に場所を移して行われた。最初に、日本初のフードバンク「セカンドハーベスト・ジャパン」で働く芝田雄司さんが、日本のフードセーフティーネットの現状について話した。芝田さんは、不安感が広がる現代社会では、食の確保は誰にとっても重要になると言い、食の支援が単に現在の経済困窮者だけのものではないことを指摘。「そこに行けば、誰でも食にアクセスできる場所が必要」だと語った。
また、昨年と今年では食に関する支援がどのように変わってきたかを、具体的な数字で説明した。東京都内の子ども食堂の数は昨年10件以下だったが、今年は60〜80件程度に増加しており、全国では300〜400件程度となっている。また、「おてらおやつクラブ」という寺院の供え物を使った活動も増えており、参加寺院は現在、全国で462カ所に及ぶという。そして、フードバンクやパントリーの活動も、昨年の1団体から、今年は準備団体も含めて14団体程度に増えた。
しかし、世界的に見れば、日本のフードセーフティーネットはまだまだ脆弱(ぜいじゃく)で、フードバンクだけでフードセーフティーネットは構築できないと語った。芝田さんは、「フードセーフティーネットが構築された社会とは、全ての人が経済レベルに関係なく、いつでも必要な時に栄養のある食べ物を得ることができる安心な社会」だと言い、行政、社会福祉協議会、民間団体などが連携し、必要な人が必要な時に使える仕組みを作っていくことを訴えた。
その後、食の支援に取り組む団体から4人が登壇し、それぞれの活動について報告した。NPO法人「豊島子どもWAKUWAKUネットワーク」のボランティアスタッフ、村瀬恵美さんは、昨年同フォーラムに参加したのがきっかけとなり、子どもたちへの食の支援に携わるようになった。日本の子どもの6人に1人が貧困状態にある現在、地域でのサポートが大切であることを訴える村瀬さんは、住宅街にある一軒家を借り、「池袋子ども食堂」を開いている。
「子どもに食事を提供する『子ども食堂』だが、子どもたちと関わることで、子どもたちが抱えていることが見えてくる。そこからまた関わりが広がっていく」と村瀬さん。子ども食堂が、単に食事を与える場所ではなく、地域と子どもがつながる場、孤立しがちな家庭が地域とつながる場、さらに地域の女性が活躍できる場であることを語った。
「フードバンク板橋」準備委員会代表の藤村行一さんは、現在取り組んでいるフードドライブプロジェクトについて報告した。このプロジェクトでは、捨てられる食品を板橋区内の企業や団体、各家庭から収集し、それらを必要とする施設などへ配布している。住職でもある藤村さんは、板橋区で2015年に設立した自立相談支援機関「いたばし生活仕事サポートセンター」(いたサポ)からフードバンクの話を聞き、この活動を始めた。
今年3月に行った同プロジェクトの決起集会には、60人を超える参加者があった。しかし、次第に協力者は減っていき、「善意の活動であっても、実績がないと人や寄付金は集まらない」と実感。その後は地道に周知活動を行い、現在の賛同者は150人を数えるまでになり、企業などからの寄付もあり、さらには食品を置いておく倉庫も借りることができた。藤村さんは「絶対に諦めてはいけない。どん底からここまで来られたのは、人のつながりだった。ちょっとした出会いが『ご縁』につながる」とこれまでの活動を振り返った。
八王子市生活自立支援課の遠藤治雄さんは、食の支援に関する行政の取り組みについて報告した。市役所の窓口に相談に訪れる人は昨年より増加し、フードバンクの利用者も増加している。遠藤さんは、相談窓口に来る人たちの背景はさまざまであり、生活保護が受けられない場合でも、生活維持ができない状況にある人が多くいることを話した。そうした人たちの支援の1つとして、フードバンクが非常に有効であることを、支援事例を通して説明した。
遠藤さんは、「生活困窮者への支援で大切なのは早期発見。これは、行政の窓口だけでは無理があり、地域とのつながりがないと難しい」と述べ、いろいろな関係機関と緩やかな連携を取っていくことが一番必要だと感じていると語った。
ウェスレー財団の藤守義光さんは、キリスト教と食料支援について報告した。藤守さんは、日本のキリスト教会は社会支援に対する関心が高いにもかかわらず、さまざまな社会支援活動が「日常化」しない現状を話した。その原因として、自身が長老を務める柏木教会を例にして、「閉鎖的な日本の教会文化」「地域社会との隔離」「人的資源の枯渇」「膠着(こうちゃく)化した教会の在り方」の4つの問題を挙げた。
こういった問題を抱える中、柏木教会はセカンドハーベスト・ジャパンと連携して、月1回(第2土曜日)、パントリーとして場所を提供している。これは、日曜日と水曜日以外はあまり使われることのない教会の建物を有効に利用することであり、地域とのつながりを持つという点でもメッリトとなる。また、パントリーとなることで、教会員が外の世界にも目を向けるようになってきているという。活動も月1回のみで、セカンドハーベスト・ジャパンとも連携していることから、人材不足の教会でも無理なく活動を続けていくことができるという。
藤守さんは、「『できることをできる』のがパントリーの活動であり、希望を持った小さな歩み」だと語った。今後は、他教会にも呼び掛け活動を広げたいとし、地域の人々にもまずは教会の建物に入ってもらい、伝道といったことはせずに、一緒に活動していけたらと考えていると語った。聖書から「わたしが来たのは、羊が命を受けるため、しかも豊かに受けるためである」(ヨハネ10:10)を引用し、「全ての人間が豊かに受けるために、手を携えたいと思う人たちが集える場所に教会がなれれば、教会も私たちも変わると思う」と話した。
4人による報告の後には、8グループに分かれて、ワークショップが行われた。「自分たちに何ができるか」と「行政と民間との連携」について議論し、各グループのファシリテーターが議論した内容を発表した。
「自分たちに何ができるか」については、子どもの貧困を早期に発見し、支援していくためには、地域におけるのコミュニケーションが大切だという意見が出た。食の支援について関心を持つ工夫をし、地元の力を生かし、地域の人たちを巻き込んだ支援にするべきだという声も。さらに、「何か問題が起こると一気にそれをたたく、といった風潮がある。思いだけではこういう活動は続けていけない。人が変わっても続けられることが大切」といった意見も紹介された。
「行政と民間との連携」については、行政のイメージが徐々に変わってきていることが、一致した意見として出された。現在はさまざまな制度があり、それをどう具体的につなげるかが必要だという。また、行政と民間といっても、「人」対「人」の関わりであるため、顔を合わせて話し合っていくことで、良い連携ができるのではないかという意見もあった。また、ほとんどのグループで、「諦めずに毎日取り組みを積み重ねていく」ことが最も大切であることが述べられた。