安保法制案「可決」から1年を迎える19日(月・敬老の日)、「戦争させない!9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の主催により、午後3時半から午後5時まで、国会正門前で「強行採決から1年!戦争法廃止!9・19国会正門前行動」が行われる。
これに先立って、国際基督教大学(ICU)前教授でクリスチャンの稲正樹氏(憲法学)は16日、電話による本紙とのインタビューに答え、安保法制の問題点や違憲訴訟、キリスト者の役割について語った。その主な内容は以下の通り。
―安保法制について、今最も大きな問題点は何だとお考えですか?
稲正樹氏:駆けつけ警護が一番心配しているところですね。南スーダンのジュバの問題です。従来のPKO(平和維持活動)と全く違いますし、それから内戦状態になっている所で、従来のPKO原則が全く崩れていますが、日本政府が(自衛隊を)引き揚げようとしていないところです。安保法制の集団的自衛権の本体ではないですが、そこのところで大きな問題になってきて、死者が出る、あるいは現地の市民を殺害してしまうとか。そういうことで非常に心配しています。
―今後の運動の役割や可能性・課題について何かお考えでしょうか? 例えば今、安保法制に対する違憲訴訟が幾つか起こされていますが。
稲氏:そうですね。違憲訴訟について(私が)10月にある所で報告することになっていて、訴状などを読み始めましたが、東京だけではなくて大阪・岡山・長野・いわきなど、各地で止むに止まれぬ思いで市民の皆さんが原告になって、あるいは憲法研究者も原告になったりしています。主張が3つあります。1つはもちろん平和的生存権。2つ目は人格権。3つ目は憲法改正・憲法決定権。そういうところで国民の具体的な利益が侵害されているとして、一般の国民が裁判を起こしていますが、正直なところ、幾つか心配な点はあります。それは、弁護士の皆さんが一生懸命訴状を書かれているわけですが、実際にそれが裁判の中で取り上げられるかどうかが一番大きなポイントだと思います。もちろん、集団的自衛権と武力の一体化ということを正面に立てて、その2点を主な争点にして憲法違反ということを言っていますが、さまざまな裁判官がいますから。やはり深瀬(忠一)先生が、古いですが恵庭裁判・長沼裁判の時に、世論・弁論・理論が合わさって初めて裁判で勝てるという議論がありましたよね。三位一体にかけて三論一体といいました。この三論一体の弁論・理論を強めていく世論がやはりないと、裁判所の中の力関係だけではなかなか難しいと思っています。ですから、裁判を起こされた人たちの思いを広げていって、それを裁判官か受け入れられるような理論を補強していって、それを広く裁判所の外から大きく支援していく世論が必要ですが、その3つの条件を作っていくのが今後の課題かと思うわけです。私は今の最高裁まで行ったときに、本当にどうなんだろうかという気がしていましてね。合憲判決が出た場合、逆の非常に大きなダメージもありますので、違憲訴訟についてもう少し考えていきたいと思っています。でも、もう動き出していますから、実際に憲法研究者の中でもそれをサポートするという形で意見書を書いたりする方もいますので、私も傍観者的に横っちょから「危ないな」と見ているんじゃなくて、何かもう少しコミットできるような役割をしていきたいと思っていました。具体的に言うと、平和的生存権をもう少し、さらに実務の人たちが受け入れることができるような形にしていきたいと思っています。まあ、どこまでできるか分かりませんが。
―深瀬先生ご自身も、もちろん言うまでもなくクリスチャンでいらっしゃったわけですが、安保法制の問題についてクリスチャンやキリスト教団体・教会に何か期待することがありますか?
稲氏:そうですね。そんなに口幅ったいことを言うことはできませんが、ただ、この安保法制の問題というのは、やっぱりクリスチャンにとって大きな問題といいますか、「平和をつくり出す人たち」(マタイによる福音書5章9節、口語訳)というイエスのメッセージがもちろんあるわけですが、平和をつくり出していない日本を具体的に考えてみても、安心・安全ではなくてテロとかが起こってきますよね。そういうふうにならないようなところで、キリスト者も非常に大きな役割を果たすことができるんじゃないかと思っています。ですから、この問題を、自分の信仰とは全く別だというふうに考えていらっしゃる人がいるかもしれませんが、やはりそうではない、あなたたちは平和をつくり出していく働き人になりなさいというのがイエスの言われたことですので、教会の中にいる方たちもそういう思いで安保法制廃止の運動に主体的に関わってくれたらありがたいなと思います。
なお、19日の国会正門前行動では、
- 9条壊すな!実行委員会と市民グループ、個人は、正門前エリアと並木通り両側
- 1000人委員会は、北庭前歩道
- 共同センターは、南庭前歩道
にそれぞれ集まるという。「平和をつくり出す宗教者ネット(宗教者平和ネット)」も、当日は早めに国会正門前に行って陣取る予定だとのこと。詳しくはこちら。また、9・19国会正門前行動のちらしはこちら。
一方、「安保法制違憲訴訟の会」によると、29日に安保法制違憲・差し止め訴訟の第1回口頭弁論が東京地裁103号法廷で開かれ、同訴訟の報告集会が同日午後5時から参議院議員会館B107で開かれる。傍聴や参加など、詳しくは同会のホームページで。
なお、関連の新刊本に、『安保法制違憲訴訟』(かもがわ出版、2016年6月)がある。